アンハッピー・ウエディング〜後編〜

…それなのに。

「良いんだって、普通で。むしろ普通だから良いんじゃん。お袋の味って感じがするだろ?…自分、お袋いねーから分かんねーけど」

さらっと重いこと言うのやめろ。

「いかにもSNS映えを狙ったような、お洒落な料理は女子部に任せようぜ。太刀打ちしたって絶対敵わないんだからさ」

「成程。敢えて家庭の味を追及することで、女子部との差別化を図ろうという作戦ですね」

「そゆこと!」

えぇぇ…。

雛堂の経営戦略は分かったけども…。それ、流行るのか…?

家庭の味を求めるなら、家庭で食べれば良くね?

家庭で食べられないものこそ、外食で食べるのであって。

俺の、いつもの何の変哲もないカレーが、わざわざ金を払って食べに来るようなものだとは思えない。

「それにほら、カレーならメニューには困らないじゃん?サイドメニューはサラダで、有料のトッピングでゆで卵とか冷凍の唐揚げをつけたら、それだけでもうメニュー完成だぜ」

それ、もう『星見食堂』じゃないな。

『星見カレーショップ』だ。

趣旨変わってね…?

「カレー屋かよ…」

「よし、店名は『HoShi壱番屋』にしようぜ。略称はホシイチだな」

パクリじゃん。

俺は一言も「良い」なんて言ってないのに、俺の意志に関係なく話が決まっていく…。

「乙無…。止めてくれよ。このままじゃマジでパクリカレーショップ、ホシイチが開店してしまう」

「良いんじゃないですか?別に。文化祭のノリなんだから。パクリと言わずオマージュと言いましょうよ」

いや、パクリだろ?

「カレーならレシピも比較的分かりやすいですし、万が一失敗したとしても、カレー味なら何とか誤魔化せるんじゃないですか?人間の舌って馬鹿ですし」

乙無まで。

そんな馬鹿じゃねーよ。人間の舌。意外と繊細だぞ?

カレー味なら全てを誤魔化せると思ったら、それは大きな過ちだ。

それなのに。

「ってことで、これから文化祭の日までに、カレーの腕前磨いといてくれ。頼むぞ」

「…本気かよ…」

どんどん、後戻り出来ない領域に踏み込んでいく気がする。