寿々花さんじゃないけどさぁ。

玄関に蹲って、しばらく落ち込んでいたい気分だよ。

「はぁー…」

家に帰ってからというもの、ぐったりと疲れた俺は。

リビングのテーブルに突っ伏して、巨大な溜め息を連発していた。

…あー、辛い。

何だって俺がこんな不幸な目に…。なんて、今に始まったことじゃないような気もするが。

すると。

「…悠理君が落ち込んでる…。可哀想…」

深々と溜め息をつく俺を見て、寿々花さんが心配そうな顔で寄ってきた。

「元気出して、悠理君。はい、これ私のうんまい棒あげるから」

「お、おう…」

寿々花さんが駄菓子を差し出してきた。

うんまい棒一本じゃ、とても割に合わない役目を背負わされたが。

でも、俺を心配してくれる寿々花さんの、その気持ちだけは有り難い。

「美味しいよ。食べたらきっと元気出るよ」

「あ、ありが…」

「お豆腐味のうんまい棒だよ」

「…豆腐…!?」

そんな味あんの?

パッケージをよく見たら、本当に「おとうふ味」って書いてあった。

マジかよ。

うんまい棒だったら、俺コンポタ味が好きだったんだけど。

まぁいっか。寿々花さんが折角くれたんだから。

有り難く食べるよ。

初めてのうんまい棒お豆腐味は、本当に豆腐の味がしてびっくりした。

…意外とイケるな。

って、うんまい棒の食レポしてる場合じゃないんだよ。

「…はぁ。悩んでても仕方ない…。そろそろ夕飯の支度をするか…」

「大丈夫?悠理君。何か悲しいことがあったの?」

立ち上がりかけた俺に、寿々花さんが声をかけてきた。

悲しいこと?…あったよ。

物凄く悲しかったね。何せ女装の生け贄に選ばれたんだから。

「よしよしってしてあげようか?元気が出るかも。よしよし、悠理君は良い子だねー」

子供にするかのように、俺の頭をよしよし、と撫でてくれた。

寿々花さんの優しさを感じる。

「誰かが悠理君を泣かせたの?」

「いや、別に泣いてはいないけど…」

「そんな悪い子がいたら、私が、えいってしてあげるから連れてきて。悠理君みたいな良い子を悲しませるような人は、悪い子に決まってるもん」

…何?その理屈。

でも、別にこれは誰が悪い訳でもないから。

「誰も悪くねーよ。…強いて言うなら…悪いのは俺だよ」

「悠理君は悪くないよ?」

「悪いよ。…俺の運がな」

全ては、俺の運の無さが原因。

「…運…?」

寿々花さんは、きょとん、と首を傾げた。

…えーと。これ言っちゃって良いんだろうか。

…一応言っとくか。万が一、寿々花さんがコンテスト当日に俺の女装姿を見て。

色んな誤解が生まれてしまった挙げ句、俺には女装趣味があると言い触らされるようにことになったら…。

…その時は、さすがの俺も本気で泣きそうだから。