…ホームルームの後。

クラスメイト達は、それはもう安堵した表情で、ホッと胸を撫で下ろし。

足取り軽く、教室から出ていった。

…俺を除いて、だけどな。

…どうすんの?これ。

どうすんのっつったって、どうしようもない。

厳正なるあみだくじの結果なのだから。誰にも、俺にも、文句はつけられない。

だが、だからといって喜んで引き受けるとは言ってない。

「…悠理さん。今日ばかりは、心の底からあなたに同情しますよ」

机に肘をついて頭を押さえている俺に、乙無が労いの言葉をくれた。

そりゃどうも。ありがとうな。

「同情するなら代わってくれ」

「お断りです」

そうか。即答だったな。

乙無を薄情だと責めることは出来ない。

俺だって、もし選ばれたのがこの二人のどちらかだったとして。

「同情するなら代わってくれ」と頼まれても、絶対引き受けなかったはずだから。

誰が好き好んで、女装なんかするかよ。

「食堂の店主と、女装コンテストの生け贄、両方に選ばれるとは…。悠理兄さん、あんた『持ってる』な」

と、雛堂も言った。

何も持ってねーよ。

「悠理さんは店主ですから、あみだくじから外れても良いと思ってたんですけどね」

「さすがに、それは駄目だろ?一応クラスメイト皆、平等にリスク背負ってんだから」

…それは仕方ないよな。

今更、後から言ったら卑怯じゃん。俺は食堂の店主なんだから、やっぱり生け贄から外してくれ、なんて。

それを主張するなら、あみだくじを引く前に言うべきだった。

時既に遅し。

「仕方ねぇよ、悠理兄さん。申し訳ないが、覚悟を決めて女装してくれ」

「…畜生…。あんた、他人事だと思って…」

「ぶっちゃけ、自分じゃなくて良かったーって思ってるわ」

「僕も同じく」

そうだろうよ。畜生。

自分のあまりの運の無さに、涙がちょちょ切れそうである。

果たして、俺は無事に文化祭を乗り越えられるのだろうか?