「ね、ねえ!」
突然大声を出すと、ビクッと月太の肩が揺れる。
迷惑そうに振り向いた彼は私の目を見るや否や口を開いた。
「嫌だ」
「私まだ何も言ってないんですが!?」
縋るように月太の鞄を掴むも、塩対応で振り払われた。
「どーせ協力しろとかそんなんだろ。絶対やだ。まず自分で努力してから言えよ」
「くっ……、おっしゃる通りで……」
月太の言うことがもっとも過ぎてぐうの音も出ない。
私のお願いは秒で霧散してしまった。
月太は項垂れる私の手から日誌を取ると、あっさりと背中を向ける。
「じゃ、俺鍵のついでに日誌出しとくから」
「……あ、ありがとう」
職員室の方へ去っていく背中に悲しそうな感謝の声が落ちる。
容赦の無い月太に先ほどまでの元気を奪われた私は一人寂しく帰ることにした。
下駄箱へと向かおうと一歩足を進めた時だった。
こつん、と上靴が何かを蹴る。
「あ、これ……」
コロコロと床を転がるそれは、私の持っているリップクリームと同じもの。
保湿成分にUV効果、自然なツヤが出て血色感アップしてくれる優れもので、最近コスメ好き達がこぞって持っているアイテムなのだけど……。
自分のポーチを確認するときちんと入っていることから、これは落とし物らしい。
普通のリップクリームよりも少し値が張るため、落としたとなれば持ち主は悲しむだろう。
リップクリームを拾い上げて職員室に届けようと歩き始めた。

