窓や後ろのドアの施錠を終えて荷物を持つ。

隣の席で帰り支度をする月太が「そういえば」と切り出した。


「陽太」

「な、何」

陽太くんの名前を出されドキッとした私へ、にやりと揶揄うような笑みが注がれる。


「全然喋れてねーじゃん」

「そ、そりゃあの顔が目の前にいたら緊張して……!」

パタパタと顔を手で仰ぎながらぶり返した熱を覚ます。


すると、月太は自分の顔を指差して。

「この顔?」

いや、まあ、双子だから似てはいるんだけど。


「そっくりなのにこの違いはなんだろうねぇ」

「勝手に憐れむなよ」

急激にすん、と落ち着き払った私へ、月太が呆れた目を向ける。

そして「だいたいさぁ、」と言葉を続ける。


「みんな陽太のことは陽太くんって呼ぶくせに俺のことは最初から月太って呼ぶし差ありすぎる」

「月太はくん付けってキャラじゃないし。それに陽太くんに呼び捨てなんて畏れ多くて……!」

顔の前で大げさに手を振る私へ月太のじとりとした視線が刺さる。


「悪かったな、平凡で」

「いやいや平凡とは言ってないですけどねぇ」

「自分も平凡なくせに」

「うるさいな」

さっさと教室のドアへ向かう月太の背中を追いかける。


相変わらずのやりとりをしながら、陽太くんとこんな風に気安く喋れたら……なんて考えた。

確かに、月太の言うとおり陽太くんを目の前にすると全然言葉が出なかったのは事実だ。

(もし、もうちょっとだけでも喋れたら……)

憧れの人と話せるだけで、私のしがない高校生活も少しは華やかになるのでは……。