「月太ちゃんとやってる?」

「あ、えっと……、うん!」

話しかけられたことに舞い上がり声が一段階高くなる。

「そうなんだ」と微笑んだ陽太くんのお兄ちゃんスマイルに頬がかあっと熱を持った。


「月太にいじめられたりしてない?」

「あ、それは……」

ちらりと月太を見ると「してねぇわ」と横槍が入る。

そのやりとりに陽太くんが「はは」と笑い、思わず見惚れてしまった。


「じゃあ行くわ。頑張って」

月太がやる気なく「おー」と答える。

陽太くんが私に視線を向け、手をひらひらと振りながら言った。


「五十嵐さんも」


(名前……!)

思わず心の中で叫び、一瞬遅れて返事をする。

「あ、ありがとっ」


去っていく背中を見送り、月太が窓を閉めてもなおその方向を眺め続けた。

キラキラな笑顔に優しい気遣い、何より私の名前を知っていた感動が胸にじーんと響いて……。


が、その余韻は頭の上をぽこんと叩かれ消えてしまった。

見ると、月太の手には書き途中の学級日誌。


「ひどっ、余韻返して!」

「早よ書け」

渋々席に座り直し、日誌を完成させた。