「うーん、私が小学生の頃にはお兄ちゃんが女装してたし、お兄ちゃんのお仲間も何人か知ってるし、あまり抵抗感はないっていうか……」
思えば、強い個性を持つ人への偏見は兄のおかげであまりないのだと思う。
私自身もメイクが好きで、校則さえなければ毎日違う雰囲気のメイクをしていくに違いないから。
だから、何ていうか──。
「好きな格好するのっていいよね」
月太のメイクをしながらウキウキとした気分で答える私の顔を月太が見上げる。
「ん?何?」
「いや、ちょっと気が抜けただけ」
そう言って私へ任せるように瞼を閉じた月太。
その口元は少し緩んでいるように見えた。
「完成しました!」
グッと親指を立てて自分の仕事を褒め称える。
目の前にはキラキラと輝く美少女。
「ちょ、超絶美少女を爆誕させてしまった……」
素材が良いからその辺のアイドルにも引けを取らない。
ポイントはくりんとした子猫のような目とぷっくりとした涙袋。それから、ハイライトとシェーディングでより引き締まった鼻筋である。
クリアなレッド系でまとめた力作だ。
「か、かわ、可愛い……!」
月太に真っ直ぐに見られ頬を染めて騒ぐと、がしっと上から頭を掴まれてしまった。
抵抗するようにぐぐっと無理やり顔を上げてみると、口元に手を当て照れる貴重な姿の月太がいた。
「やめろって。なんか、恥ずかしい……」
(いや、ほんと、どうしてくれようか)
女装姿の月太は完全に私のツボだったのである。
なおも「可愛い」を連呼していると、月太にぽこんと頭を叩かれてしまった。

