「え?いいの?」

今度は私が驚いていると「やるなら早くして」と急かされてしまった。


私は兄のメイクボックスを掴むと、月太を兄の机の前に案内した。

左右にLEDが装備されたミラーを月太の前に置く。

鏡の中にはクリップで前髪を留めた月太の顔。


薄く塗られたファンデの上から軽く保湿スプレーをして手のひらで押さえる。

「すごい。素材が違うわ」

陶器のようなざらつき知らずの肌に感動して思わずベタベタと触ってしまった。

金森家はみんなこうなのだろうか。

陽太くんと双子というのもこうしてメイクをしていると頷ける。

「ニキビとかないの?肌綺麗すぎない?」

「どーも」

「え、嫌味?」

「自分で言ったんだろ」

気づけば普段のやり取りに戻っていて、心の奥底でほっと安堵した。

とりあえず、友達を1人失うことはなさそうだ。


薄くコンシーラーでカバーしてパウダーを重ねる。

話しながらアイメイクへと移った時、珍しく月太から話を振られた。

「俺が女装とか、キモイって思わないわけ?」

「思わないよ?」

きょとんとしながら即答すると、鏡越しに月太と目が合った。

その顔はどこか不安そうにも見える。