「な、何」

「多実、げっちゃんのメイクしてあげたら?」


少しの間を開けて、私と月太の声が揃う。

「は!?」
「えっ!」


兄の提案に戸惑う私たちを置いて、兄は取り繕うように話を続けた。

「そもそも今日げっちゃんがうちに来たのはメイクしてあげるって約束だし、ちょうどよくない?」

話すうちに良い考えだと思い始めたのか、途中から饒舌になっていく兄に頭が痛くなる。

いつも教室では私をからかう側の月太だけど、今は完全に兄のペースだ。

「多実はメイク上手いし僕もよくやってもらってんの」

「そう、なんすか……」

「うん。僕がやるよりずっと可愛くしてくれるよ」

勝手に話を進める兄にタジタジの月太。


見ていられなくて口を挟もうとすると。

「多実、この色とかどう思う?」

兄は突然月太の顔の横にグロスを掲げた。


つい、目線が月太の顔とグロスを行き来する。

そんな私の様子を見た兄はグロスの蓋を開けると月太の唇にちょん、と色を乗せた。

そして、どう?と言わんばかりに首を傾げてこちらを見るものだから……。


「くすみ系よりクリアな色のが良さそう。その服ならオレンジ系似合いそう」

つい、うっかりと意見を述べてしまった。

はっと気づくももう遅い。

兄は嬉しそうに私へ自分のメイクボックスを押し付けるとそそくさと部屋の入口へと向かう。


「じゃあ僕はヘアセットしてくるから仲良くメイクしててよ」

「ちょっ……」

「完成が楽しみだなー」

ぱたん、と部屋のドアが閉まり、再び地獄のような沈黙に包まれてしまった。