「孝ちゃん、わたしと付き合ってください!」

七瀬香帆(ななせかほ)、本日一世一代の大勝負をかけました。


告白の相手である孝ちゃんこと田邊孝介(たなべこうすけ)は、私の告白に二重の大きな目を何度か瞬かせたあと、いつもの優しい微笑みを浮かべた。
「いいよ」
さらりといわれすぎて、一瞬聞き間違いかと思ったほどだった。
「い、いいの!?」
玉砕覚悟だっただけに、私は衝撃を受けていた。
孝ちゃんは優しく私の頭を撫でる。

「香帆と付き合えるなんて嬉しいよ」

それは、私にとっては夢のような出来事だった。


孝ちゃんは、私の家の近所に住むお兄ちゃんのような存在だった。
親同士の仲がよく、物心がついた時にはそばにいたし、いつも私のお守り役は孝ちゃんだった。
ママの言うことを聞かない時も、孝ちゃんがいえば一発できくくらい。
歳は二つ離れていて、孝ちゃんは今は大学一年生。
身近な存在だった孝ちゃんの噂はいつも私の耳に入ってきていた。

成績優秀
運動神経抜群
容姿端麗
礼儀正しい
誰にでも分け隔てなく優しい

私の親なんて孝ちゃんを見習いなさいが口癖だ。
小さい時からそばにいた孝ちゃんは、男子にいじめられた時もすぐに守ってくれた。

きっと妹にしか思われていないと思ってたけど、いつか彼女が出来て、何も出来なくなるのも嫌だと思って告白をしようと決意した。
振られる覚悟を決めていたのにまさか付き合えるなんて。

「はーあ。彼氏だって」
孝ちゃんのlineを開きながら、孝ちゃんが彼氏か……と余韻に浸る。
夢ではないか確かめたくて、これからよろしくねと送ったらこちらこそと返ってきた。
そのやり取りをみてニヤニヤがまた止まらない。

これで、妹としての私も脱却できるんだ。
彼女として孝ちゃんに相応しい女になると心に決めた。