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「八雲さん、どう思います?」



気を失った白をベッドに寝かせる八雲に豪は尋ねた。

足心は腕を組みながら考えを巡らせていた。



(どういうことじゃ。)



先程の医者の話では彼女に身体的異常はなかった。腕を負傷してはいたが、治癒魔法で既に完治させたと言っていた。

豪が同席してくれというから何事かと思えば、なるほど嫌な予感ほど当たるものだ。



「ん〜、俺じゃあ何ともねぇ…。でもこの感じ、魔法…なのかなぁ。」
「でも記憶に纏わる魔法は…。」
「仮に命を代償としたとしても、『光属性の使い手』じゃなきゃ魔法は使えない。」



八雲は白の寝顔を見つめながら眉間に皺を寄せた。


光属性は分からないことだらけだ。もしかしたら、自分たちは手に負えないものを相手にしようとしているのではないか。

そこまで考えてから八雲は足心に問いを投げかけた。



「どう思われます、総隊長。」
「そうじゃのぅ…。何とも言えんが…仮にその子に光属性の魔法がかけられていたとして、それを確かめる術はないのぅ。心因性の可能性も拭えまい。」
「しばらく様子見ですかねぇ…。」
「うむ…。しばらくは監視をつけ、様子を見る他ないのぅ。豪はどう思う。」



足心は豪を見やった。



「正直意識を失ってる彼女を見ても何とも言えませんが、体つきや雰囲気からして普通の子どもにしか見えませんね。」
「同感じゃ。まぁ、何かあれば儂がおる。そのときは儂がこの子を殺す。」



平然とそう言う足心に、豪は表情を引き攣らせた。


さすが戦乱の世を生き抜いてきた総隊長だ。きっと自分が同じことを言っても冗談にしか聞こえないだろう。なのに足心が口にしただけで言葉の重みが違う。

これは冗談などではない。何かあれば足心は躊躇なくこの子を殺すだろう。



「豪、誰か見張り手配しておいてくんない?」
「八雲さんじゃ駄目なんですか? 落ち着くまでの間とか。」
「俺は忙しいの。それに俺があんまり馴れ合っちゃあマズイでしょ。俺、一応班長だし。」



そう言いながらも、八雲は白の寝顔を見つめて何かを思案しているようだった。その心中を推し量ることはできなかったが、豪には何やらいつもの八雲とは少し様子が違うように見えた。


あんな雪の中、負傷した子どもが独り倒れている光景はかなりのインパクトだった。それも、村からの緊急連絡を受けての道中だ。

とはいえ班長である八雲自ら白を連れて首都へ引き返すと言い出した際には、付き合いの長い豪も驚いた。普段であれば恐らく自分に白を任せて八雲は村へ向かっただろう。

…立場を言い訳に見張りを逃れるあたりはいつも通りだが。



「ま、俺も気にするようにするよ。」



そう言うと八雲は飄々と病室を出て行った。

豪は何も起こらないことを願いながらその後ろ姿を見つめ、溜め息を1つ吐いた。