目を覚ますと見慣れない天井が視界に映った。

ここはどこだろう。私、どうしたんだっけ。



「お、気が付いた?」



私が目覚めたことに気が付いた彼は、私の顔を覗き込んで尋ねた。どうやらずっと側にいてくれたらしい。


窓から差し込む光を受けて輝く銀髪。青の瞳。

雪の中で私を助けてくれた彼だ。あの時はローブで口元が隠れていたが、今は口元も見える。


死んだはずの彼……八雲隊長だ。夢を見ているんだろうか。上の空で私は口を開いた。



「私…。」
「まだ起き上がらない方がいい。」



起き上がろうとした私を嗜めると、彼は優しく笑った。

改めて見るとやはり整った顔立ちをしている。笑うと垂れた目がより一層垂れて優しさが滲む。それが私を安心させた。


先程夢で見た場面……。あれは私が死ぬ場面だった。夢というにはあまりに生々しい。間違いなくあれは現実だ。私は死んだ。



「まだボンヤリする?」



ボンヤリと見つめる私を見て、彼は首を傾げた。


正直、まだ何が起きているのか自分でもよく分からない。…だけど、何だっていい。目の前に生きて彼が…八雲隊長がいる。本物だ。

目からボロボロと大粒の涙が零れ落ちて枕に染みを作り始めた。



「ここ…。」
「首都の病院だよ。」



首都。


彼から視線を外して、彼の背後の窓に視線を向けた。

いつの間にか夜は明けていた。空の色からしてまだ早朝だろうか、窓から差し込む光が眩しい。雪もすっかり止んでいた。


まだ冷め切らない頭がボンヤリする。

あの夢は確かに現実で、私は八雲隊長と一緒に死んだ。なのに生きてる上に子どもになっているし、八雲隊長は私のことを知らない様子だ。



(どうなってるの…?)



ボンヤリとする私に気が付いた彼は再び柔らかく笑って言った。



「もう少し眠ってな。ここにいるから。」
「はい……。」



このままボンヤリした頭で考えても仕方がない。眠ったらもう少し頭も整理されるかもしれない。

私は素直にもう少し眠ることにした。


けれど目を閉じると殺される場面がフラッシュバックしてしまって、とても眠れない。



「…あの。」



私はゆっくりと瞼を持ち上げると目だけでチラリと彼の方を見た。



「ん?」
「あの、眠るまでの間でいいんですけど…。」



私は恥ずかしさから視線を少しずらしながらそっと顔の横に手を出した。



「少し、手を握っててもらえませんか…。」



恥ずかしい。きっと今私の顔は真っ赤だろう。けれど心細くて堪らない。

そんな私の葛藤をよそに八雲隊長は何も言わずただ優しく私の手に自分の手を重ねると包み込むように優しく、けれどしっかりと握った。


ただそれだけなのに、私は心の中が安心感で満たされていくのを感じていた。優しい手の温もりが心地良くて、懐かしくて。

私はまた目頭が熱くなるのを感じて、慌てて彼とは反対の方に顔を向けた。涙がボロボロと頬を伝っていく。けれど止めることができなかった。


私はそのまま泣き疲れて、深い眠りへと落ちていった。