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訓練所の裏手に墓所がある。まるで死んだ者たちの無念を忘れるなと訓練生の頃からその身に刻まれるようだ。

もちろん死んだ者たちは殺された者たちばかりではない。だがこうして並ぶ墓標を見てしまうとクるものがある。


そんな中に彼女は呆然と立ち尽くしていた。



「真白。」



彼女は振り返ることもなく、ただ老婆の墓標を見下ろしたまま言った。



「どうしてお婆さんは殺されたんですか…。」
「……。」



俺は何も返すことができないまま空を見上げた。どんよりと立ち込めた暗雲が空を覆っている。

老婆はこの国…いや、俺たちが把握している限りではこの世界唯一の光属性魔法の使い手だった。殺されるには十分すぎる理由だ。



(だがそれを真白に言うわけにはいかない…。)



視線を真白に戻すと、いつの間にか無表情の彼女がこちらを見上げていた。俺と同じ青色の瞳に俺が映っている。まるで自分に見つめられているかのようだ。




「八雲さん。お婆さんは、特別な魔法が使えたんですか…?」
「……知っていたのか。」



知っているのなら必要以上に隠す必要はない、か。



「お婆さんに言われたんです。未来は私の選択で決まる、誰かを生かすも殺すも私次第だ、って。」



俺はつい盛大に溜め息を吐いた。

あの老婆、余計なことを吹き込んでくれたな…。よりにもよってそんな重いことを、こんな幼い女の子に…。



「あの老婆は予言ができるんだ。でも、予言だって確実なものじゃない。外れることだってある。」
「お婆さんも、同じことを言ってた…。けど…。」



青い瞳が涙で潤んで、眉尻と口角がみるみるうちに下がっていく。



「当たったら、どうしようっ…。」



辛うじて涙は零れていないものの、声は完全に涙に濡れていた。

俺はその場にしゃがみ込むとそっと真白を抱き寄せた。まだ小さな肩が震えている。こんな小さな女の子の肩に誰かの命が乗っているなんて、誰が考えるだろうか。



「私のせいで誰かが死んじゃったらどうしよう…!」



小さな手が縋るように俺の服を掴んだ。俺は真白の頭に手を回すと、真白の背中に回した腕に力を込めた。


残酷だが、予言に関わらず選択を間違えば簡単に人は死ぬ。俺たちが生きているのはそういう世界だ。もしも生まれた時代が違ったなら、そんな風に誰かの命を背負うことなんてなかっただろう。

俺もコイツも、運が悪いな。



「その時は、俺も一緒に背負うよ。」



真白は少し体を離すと、真っ直ぐに俺を見上げた。いつの間にかその顔は涙でぐちゃぐちゃだった。その表情を見て、つい笑みが溢れた。

なんて純粋なんだろう。

胸の中に広がっていく初めての感情に少し戸惑いつつ、これを庇護欲というんだろうと思った。



「1人で背負わなくていい。俺にも一緒に悩ませて。それで、一緒に決めよう。ね。」
「八雲、さ…。」
「大丈夫、お前1人のせいで誰かが死ぬことなんてないよ。」
「うんっ…。」



ボロボロと涙を零す真白を抱き締め直すと、そのまま彼女が泣き止むまでその背中を優しく叩いた。


総隊長が真白を気にかけてくれと言ってきたのは数日前のことだった。不思議に思って進先生に訊けば、真白の様子がおかしいと言う。

原因があの老婆だとは思わなかったが、老婆がわざわざ会いに行って、しかも予言を遺した。



__『お前さん、このままだと死ぬぞ。』



俺を指差してそう言った時の老婆の笑みを、俺は一生忘れないだろう。

もしかしたら、真白が背負っているのは俺の命なのかもしれない。そんなことを考えながら俺は笑みを溢した。