「駄目じゃ。」
老婆は溜め息を1つ吐くと、諦めたように気を緩めた。
「儂程度の力じゃ分からんのぅ…。」
「そ、そうですか…。」
やはりこの現象は光属性魔法によるものなのか。だとしたら、誰がこの魔法をどのタイミングでかけたんだろう。
私はこの国の光属性魔法の使い手…つまりこの老婆が総隊長を救うことを目的にかけたものなのではないかと考えていたが、どうやらその考えは外れのようだ。そうなってくるとやはり謎が出てきてしまう。
これは一筋縄ではいかなさそうだ。
「じゃがな、これは分かる。混沌としとるのはお前さんの過去だけじゃ。未来は混沌としとらん。」
突然お婆さんは私の手を固く握って言った。驚いてお婆さんを見ると、お婆さんの瞳は金の光を帯びて見えた。
「未来はお前さんが選んで決めるんじゃ。」
「選んで、決める…?」
「そうじゃ。」
そっと目を閉じると、お婆さんは私の手を離した。
「…生かすも殺すも、お前さん次第じゃな。」
「どういうこと…?」
「そのままじゃ。」
私が未来を選んで決めることで、生かすことも殺すこともできる…?
文字通りに受け取れば、それは私の選択に誰かの命が乗るということだ。私が誰かの命運を握っている…? そんなの荷が重すぎる。
「儂の魔力じゃ弱すぎて明確な未来は見えんからの。儂が分かるのはその程度じゃ。もう少し魔力が強ければハッキリと見えたかもしれんのぅ。」
お婆さんは再び奇妙な笑い声を上げた。
「未来は変わるもんじゃ。予言だって外れるときは外れるんじゃ。」
お婆さんはそう言うと私の額を人差し指で小突いた。
次の瞬間、お婆さんは私の目の前から姿を消していた。慌てて辺りを見渡してみるも、既にその影はなかった。お婆さんに小突かれた額に手をやると、微かに魔力を感じた。
(まさか、時間を止められた…?)
私はそっと額から手を下ろすと、お婆さんがいた場所を見つめた。
無責任なお婆さんだった。好き勝手言って、こちらには聞く隙も与えず嵐のように去って行った。
また会えた日には山ほどある聞きたいことをぶつけようと思いながらも、私はお婆さんの言葉を頭の中で反芻していた。
このままだと私のせいで人が死ぬ。私の、せいで。
私は呆然と立ち尽くしていた。いつの間にか雨が降り始め、周囲にいた人たちは慌ただしく路地を駆け抜けて行った。私はただ雨に打たれたまま、立ち尽くし続けていた。
訓練所に帰り着く頃には、私は全身ずぶ濡れになっていた。
「おかえり真白〜! って、ええ!? どうしたの!」
出迎えてくれた百音が大きな声を上げる。一緒に出迎えてくれた皆はタオルを持って来てくれたり、風呂を沸かしに行ったりと対応してくれているようだった。
どうやら皆、1人で出かけた私を心配して帰りを待ってくれていたらしい。
「真白!? 何があったの!?」
「途中で…降られちゃって…。」
百音に顔を覗き込まれるが、私には力なく笑うことが精一杯だった。百音はそれ以上特に追求することなく、私を風呂へと促した。
老婆が殺されたのはそれから数日後のことだった。
老婆は溜め息を1つ吐くと、諦めたように気を緩めた。
「儂程度の力じゃ分からんのぅ…。」
「そ、そうですか…。」
やはりこの現象は光属性魔法によるものなのか。だとしたら、誰がこの魔法をどのタイミングでかけたんだろう。
私はこの国の光属性魔法の使い手…つまりこの老婆が総隊長を救うことを目的にかけたものなのではないかと考えていたが、どうやらその考えは外れのようだ。そうなってくるとやはり謎が出てきてしまう。
これは一筋縄ではいかなさそうだ。
「じゃがな、これは分かる。混沌としとるのはお前さんの過去だけじゃ。未来は混沌としとらん。」
突然お婆さんは私の手を固く握って言った。驚いてお婆さんを見ると、お婆さんの瞳は金の光を帯びて見えた。
「未来はお前さんが選んで決めるんじゃ。」
「選んで、決める…?」
「そうじゃ。」
そっと目を閉じると、お婆さんは私の手を離した。
「…生かすも殺すも、お前さん次第じゃな。」
「どういうこと…?」
「そのままじゃ。」
私が未来を選んで決めることで、生かすことも殺すこともできる…?
文字通りに受け取れば、それは私の選択に誰かの命が乗るということだ。私が誰かの命運を握っている…? そんなの荷が重すぎる。
「儂の魔力じゃ弱すぎて明確な未来は見えんからの。儂が分かるのはその程度じゃ。もう少し魔力が強ければハッキリと見えたかもしれんのぅ。」
お婆さんは再び奇妙な笑い声を上げた。
「未来は変わるもんじゃ。予言だって外れるときは外れるんじゃ。」
お婆さんはそう言うと私の額を人差し指で小突いた。
次の瞬間、お婆さんは私の目の前から姿を消していた。慌てて辺りを見渡してみるも、既にその影はなかった。お婆さんに小突かれた額に手をやると、微かに魔力を感じた。
(まさか、時間を止められた…?)
私はそっと額から手を下ろすと、お婆さんがいた場所を見つめた。
無責任なお婆さんだった。好き勝手言って、こちらには聞く隙も与えず嵐のように去って行った。
また会えた日には山ほどある聞きたいことをぶつけようと思いながらも、私はお婆さんの言葉を頭の中で反芻していた。
このままだと私のせいで人が死ぬ。私の、せいで。
私は呆然と立ち尽くしていた。いつの間にか雨が降り始め、周囲にいた人たちは慌ただしく路地を駆け抜けて行った。私はただ雨に打たれたまま、立ち尽くし続けていた。
訓練所に帰り着く頃には、私は全身ずぶ濡れになっていた。
「おかえり真白〜! って、ええ!? どうしたの!」
出迎えてくれた百音が大きな声を上げる。一緒に出迎えてくれた皆はタオルを持って来てくれたり、風呂を沸かしに行ったりと対応してくれているようだった。
どうやら皆、1人で出かけた私を心配して帰りを待ってくれていたらしい。
「真白!? 何があったの!?」
「途中で…降られちゃって…。」
百音に顔を覗き込まれるが、私には力なく笑うことが精一杯だった。百音はそれ以上特に追求することなく、私を風呂へと促した。
老婆が殺されたのはそれから数日後のことだった。