路地に立ち並ぶ屋台。飛び交う声と通りを行き交う人々。皆の表情はとても明るい。子どもが走り回り、猫が伸びをしている。
「うわぁ…。」
初めて街に出た私はその活気に圧倒されていた。思わず感嘆を漏らすも、すぐに喧騒にかき消された。
今日は訓練が休みなので、日用品を求めて市場にやって来ていた。
訓練所は首都の一角にあり、訓練所や寄宿舎がまとまっている。基本的に私たちはそこで生活が成り立ってしまうので、その一角からは滅多に出ない。
訓練所の敷地を出ればすぐに街が広がり、そのど真ん中に市場がある。
私はまともに訓練所から出たことがないので街探検くらいの気持ちで繰り出して来たのだが、無事に日用品を購入して訓練所まで帰ることができるだろうかと少し心配になった。
着いて行くと声をかけてくれた皆のことを思い出し、甘えればよかったかもしれないと少し後悔する。そうはいってもあとの祭りなので、腹を括って恐る恐る活気の中に足を踏み入れた。
「可愛いお嬢さん、髪飾りはどう?」
雑貨屋のお兄さんに声をかけられて立ち止まる。
商品に目を向けると、石がついた煌びやかな髪飾りが沢山並んでいた。だが孤児の私には手が出せる値段ではない。必要最低限のお金と少しのお小遣いは国から支給されているが、この髪飾りは完全に贅沢品だ。お兄さんを笑顔で躱すと、市場を歩き続けた。
服に花、文具に魔法関連の品、かと思えば食料も売っている。いろいろな店がひしめき合う分誘惑がすごいが、とても私には手が出せない物ばかりが並んでいる。
守護隊に入れば給金が貰えるようになる。それまでの我慢だとグッと堪え、足を進めた。
「娘や。」
声をかけられて、またかと思いながらも立ち止まり振り返る。こうして声をかけられるのは何度目だろうか。そう思いながらも無視できないのは性分なのだろう。
「ちょっとこっちおいで。」
私を呼んだのは老婆だった。呼ばれるがまま路地に入る。敵意は感じないし大丈夫だろうと思いながらも警戒はおこたらない。
「何ですか?」
「手を出して。」
老婆は右手の平を上に向けて私の方に差し出した。手を重ねろということだろうか。私は恐る恐るその手に自分の手を重ねた。
「あぁ…、やっぱりお前さんだったか。」
そう言うと、老婆は奇妙な笑い声を上げた。
驚いて手を引っ込めようとするが、老婆に手を握り締められてしまった。やはり敵意も悪意も感じないが、純粋に怖い。
老婆は笑いが収まると、静かに言った。
「お前さんから特別な魔力を感じる。」
「えっ…。」
「ふん、混沌としとるね…。」
老婆はニヤリと笑った。
私は思い切り目を見開いた。会いたいと思っていた人物にまさかこんな所で会えるだなんて。
正体までは知らなかったが、この老婆が光属性の使い手に違いない。
会えると思っていなかったため聞きたいことが溢れ出す。だが、そのまま口にしては怪しまれるに決まっている。そもそも光属性魔法の存在を私が知っていてはいけないのだから。
老婆は再びニヤリと笑った。
「お前さんが特別な魔法の使い手なのか、ただ魔法をかけられているだけなのか…、ふん…。」
「お、お婆さん…私…。」
「話は足心に聞いてるよ。大変だったねぇ。」
私はまた驚いた。総隊長のことを足心と名前で呼ぶ人物がいるとは。老婆は私のリアクションにまた笑った。
そんなことより、この老婆は総隊長からどこまで聞いているんだろうか。
「儂はその魔法を使えるが、大したことはできなんだ。お前さんが普通じゃないのは分かるんじゃがな…。」
老婆はそのまま言葉を濁すとそっと目を閉じた。重ねた手に意識を集中させて、違和感の正体を探っているんだろう。
「うわぁ…。」
初めて街に出た私はその活気に圧倒されていた。思わず感嘆を漏らすも、すぐに喧騒にかき消された。
今日は訓練が休みなので、日用品を求めて市場にやって来ていた。
訓練所は首都の一角にあり、訓練所や寄宿舎がまとまっている。基本的に私たちはそこで生活が成り立ってしまうので、その一角からは滅多に出ない。
訓練所の敷地を出ればすぐに街が広がり、そのど真ん中に市場がある。
私はまともに訓練所から出たことがないので街探検くらいの気持ちで繰り出して来たのだが、無事に日用品を購入して訓練所まで帰ることができるだろうかと少し心配になった。
着いて行くと声をかけてくれた皆のことを思い出し、甘えればよかったかもしれないと少し後悔する。そうはいってもあとの祭りなので、腹を括って恐る恐る活気の中に足を踏み入れた。
「可愛いお嬢さん、髪飾りはどう?」
雑貨屋のお兄さんに声をかけられて立ち止まる。
商品に目を向けると、石がついた煌びやかな髪飾りが沢山並んでいた。だが孤児の私には手が出せる値段ではない。必要最低限のお金と少しのお小遣いは国から支給されているが、この髪飾りは完全に贅沢品だ。お兄さんを笑顔で躱すと、市場を歩き続けた。
服に花、文具に魔法関連の品、かと思えば食料も売っている。いろいろな店がひしめき合う分誘惑がすごいが、とても私には手が出せない物ばかりが並んでいる。
守護隊に入れば給金が貰えるようになる。それまでの我慢だとグッと堪え、足を進めた。
「娘や。」
声をかけられて、またかと思いながらも立ち止まり振り返る。こうして声をかけられるのは何度目だろうか。そう思いながらも無視できないのは性分なのだろう。
「ちょっとこっちおいで。」
私を呼んだのは老婆だった。呼ばれるがまま路地に入る。敵意は感じないし大丈夫だろうと思いながらも警戒はおこたらない。
「何ですか?」
「手を出して。」
老婆は右手の平を上に向けて私の方に差し出した。手を重ねろということだろうか。私は恐る恐るその手に自分の手を重ねた。
「あぁ…、やっぱりお前さんだったか。」
そう言うと、老婆は奇妙な笑い声を上げた。
驚いて手を引っ込めようとするが、老婆に手を握り締められてしまった。やはり敵意も悪意も感じないが、純粋に怖い。
老婆は笑いが収まると、静かに言った。
「お前さんから特別な魔力を感じる。」
「えっ…。」
「ふん、混沌としとるね…。」
老婆はニヤリと笑った。
私は思い切り目を見開いた。会いたいと思っていた人物にまさかこんな所で会えるだなんて。
正体までは知らなかったが、この老婆が光属性の使い手に違いない。
会えると思っていなかったため聞きたいことが溢れ出す。だが、そのまま口にしては怪しまれるに決まっている。そもそも光属性魔法の存在を私が知っていてはいけないのだから。
老婆は再びニヤリと笑った。
「お前さんが特別な魔法の使い手なのか、ただ魔法をかけられているだけなのか…、ふん…。」
「お、お婆さん…私…。」
「話は足心に聞いてるよ。大変だったねぇ。」
私はまた驚いた。総隊長のことを足心と名前で呼ぶ人物がいるとは。老婆は私のリアクションにまた笑った。
そんなことより、この老婆は総隊長からどこまで聞いているんだろうか。
「儂はその魔法を使えるが、大したことはできなんだ。お前さんが普通じゃないのは分かるんじゃがな…。」
老婆はそのまま言葉を濁すとそっと目を閉じた。重ねた手に意識を集中させて、違和感の正体を探っているんだろう。