「八雲さんに助けてもらう前の記憶がないの。村が襲われたショックなんじゃないかっていう話なんだけど…。」



私は気まずくて正面に向き直るとただ火を見つめた。ただでさえ哀れだろうに、さらに哀れまれることになってしまった。



「親の顔も兄弟がいたのかも覚えてない。だから私の生きる目標はただ八雲さんの役に立つこと、それだけなの。」



そう微笑むと聖は思い切り顔を歪めた。



「…お前、強いな。」
「え…。」



想定外の言葉に思わず目を見張った。私が強い? 先程まで向けられていた嫌悪感からして、そんな風に言われるとは全く思っていなかったため変な声が出てしまった。



「あぁ、かっこいいな!」



聖に賛同して飛鳥もそう笑うから、予想外の反応に却って私が反応に困ってしまっていた。



「強い? かっこいい…? 私が…?」
「記憶がないのに悲観ばっかしてないで、前に進もうとしてるだろ。それって十分強いんじゃねぇの?」
「だな! それにそんな姿勢がかっこいい!」



2人が笑ってそう言うから、いつの間にか涙腺が少し緩んでしまっていた。霞んだ視界に慌てて目を拭う。


寂しくなかったわけじゃない。悲しくなかったわけじゃない。

でもそれよりも果たしたい目的があったから。そして何より…。



「皆がいてくれるから。」



八雲さんが、総隊長が、百音が、飛鳥、聖、青が、先生がいてくれるから、私は今前を向けているんだ。

私たちは顔を目を見合わせると笑い合った。先程までとは打って変わって非常に穏やかな時間だった。



「…真白。ごめん。」
「え…?」



聖は罰が悪そうに首の後ろを掻いた後、意を決したように私をしっかりと見据えて言った。



「俺、お前のこと勘違いしてた。改めて…友達になってくれるか…?」



その表情には隠しきれない不安が滲んでいて、私は思わず吹き出してしまった。あの聖が、こんなにも可愛い。



「んだよ、笑うなよ!」
「ごめんね、ふふ。これまでだってずっと友達だったでしょ? でも…改めて、よろしくね。」
「…ありがとな。」
「…こちらこそ。」



そんな私たちを見て飛鳥は満足そうに頷いていた。



「あ、でも惚れるなよ! ライバルは八雲さんだけで十分だ!」
「そういうんじゃねぇから!」



なんていつもの雰囲気に戻った2人につられて笑ってしまった。


そしてその後私たちは肩を寄せ合ったまま眠りについた。翌朝目を覚ますと雨はすっかり上がっていた。

外に出ると朝焼けと、火の光を受けてキラキラと輝く雨露に濡れた木々の葉が美しかった。



「朝だー! 結局一晩中雨降ってたな! 聖大丈夫だったか?」
「あぁ。…独りじゃなかったからな。」
「よかった。」
「またいつでも一緒にいてやるからな!」
「あぁ。今度お前らが独りじゃキツいときは俺も一緒にいる。」
「お願いします。」



私は嬉しくて満面の笑みを零した。

あんなに嫌悪感を剥き出しにしていた聖が今はもう友達になった。人とは不思議なものだ。



「真白ー! 大丈夫だったー!?」
「百音!」



突然飛びついてきた百音に驚いていると、その後ろから青と彼らの班員の子がもう1人続いてやって来た。



「私たち上手く雨を凌げなくて、先生に手伝ってもらって何とか凌いだの!」



言われてみれば3人ともドロドロだ。



「真白たちは…大丈夫だったみたいね!」
「真白は魔法が上手だもんね。2人に虐められたりしなかった?」



優しくそう訊ねる青にどう返そうかとチラリと飛鳥と聖を見やると、聖が強張った顔でこちらを見ていた。



「聖に虐められたよ。」
「あっ、おい真白! 虐めてねぇだろ!」
「聖くん嘘は良くないよ! 僕見てたよ〜!」
「おい飛鳥!」
「へぇ、聖…真白虐めたの?」
「私の可愛い真白を虐めたですって!?」



慌てる聖と、それを茶化す飛鳥と、笑顔のままの青と、怒りを隠さない百音。

5人で盛り上がっていると先生が「集合!」と叫ぶのが聞こえ、私たちはそちらへと移動した。


移動する最中、聖に小突かれた。それに笑顔を返すと聖も苦笑した。そしてそんな私たちを見て皆も笑った。