膝を抱えてただ座っていると火が弾ける音や雨がしとしとと降っている音が聞こえてきた。静かで落ち着く。

宿舎にいると何だかんだ賑やかで、それはそれで楽しくはあるけれどたまにはこういう静かなのも良い。


目を閉じて音に耳を傾けていると、突然聖が呟いた。



「俺が苦手なのは、狭い所と雨、だ。」



顔を上げて隣を見ると、聖は少し顔を上げてドームの入口を見つめていた。遠くを見ている、そんな瞳だった。



「親父とお袋が殺された時、俺は木箱の中で震えてることしかできなかった。」



膝を抱える腕に強く力が込められたのが分かった。

かける言葉が見つからなくて、私はただ黙って話を聞いていることしかできなかった。飛鳥も同じだったと思う。



「動けなくて、声も出なくて、お袋に押し込まれた箱の中にずっといた。助けに来た豪さんたちに見つけられるまで、ずっと…。」



どれほど怖かっただろう。

悲鳴も怒号も何もかも聞いているしかできなかったに違いない。きっとそれは、鮮明に記憶に残ってしまっている。



「俺の家族は行商人で、20人くらいで国中を旅して回ってた。その日は、雨が降ってた。」



行商人は狙われやすい。物資の流通を絶ってしまえば簡単に相手を弱らせることができるから…。



「そのとき襲ってきた相手は太陽の国の奴らだった。俺はあいつらに、負けたくねぇんだ…。」



そこまで言うと聖は再び顔を伏せてしまった。

辛いことを口にさせてしまった。私はもたれかかるように聖に肩をくっつけた。



「教えてくれて、ありがとう。」
「……。」
「…私の村も、太陽の国に襲われたんだって。」



八雲さんに保護されてから数日後に分かったことだった。村に太陽の国の紋章が刻まれていたらしい。

自分たちがやったと主張する。そうして月の国に喧嘩を売っているのだ。


私の敵は元々太陽の国だったし、何より襲撃前の記憶がないから親の仇に対するような恨みは持ち合わせていない。

とはいえあまりに他人口調な自分の物言いに、聖との温度感を顕著に感じて、しまったと思った。



「…お前はいつもそうだよな。」



少し顔を上げた聖は冷たい視線を私に向けた。



「…村、滅ぼされてんだろ? なんでそんな冷静なんだよ。誰かが守ってくれると思ってんのか?」
「お、おい、聖…!」
「俺はお前のそういうところが気に食わねぇんだよ。お前は体術も武術も魔法も、なんだって上手くできんのに…。」



あまりにストレートな物言いに驚いて一瞬固まってしまった。そして同時に聖が私を嫌う理由を強烈に理解した。

私と聖はどうやら境遇が似ている。なのにこの温度差だ。



「…私、襲われる前のこと、覚えてなくて…。」
「は…?」
「だからかな、なんだか太陽の国を恨んだりとかできなくて…。でもね、助けてくれた八雲さんには感謝してるの。だから八雲さんの力になりたくて、えっと…。」



何を言っても言い訳にしか聞こえないような気がして、私はもごもごと話すことしかできなかった。

何でもこなせるくせに大した熱意もないように見えていたのなら、見ていていらいらするのも当たり前だ。



「待てよ、覚えてないってなんだよ。」



苛立ちと悲しみを同居させた表情を向けられて、私はまた自分が失態を犯したことに気がついた。飛鳥まで心配そうな顔で私を見ている。

言わないでおこうと思ったのに。


けれど今更撤回はできない。私は諦めて苦笑して軽い口調で言った。



「記憶がないの。」



2人は目を丸く見開いて固まっていた。息を飲むことすらなかった。それほどの衝撃だったのだろう。