気付けば季節は進み、初夏の爽やかさの中に湿気が混ざり始めていた。今日は訓練所近くの森で課外授業だ。



「この課外授業では野営の練習をする。各班メンバーは確認できたか?」



今日は3人1組での班行動だ。私は飛鳥と聖と同じ班だった。私は2人と同じ班でほっとしていた。



「よろしくな、真白!」
「よろしくね、飛鳥、聖。」
「おー。」



百音は青ともう1人女の子と同じ班のようだ。少し心細い気もするけれど、百音に甘えてばかりいられない。私も私で頑張らないと。


先生の指示に従って何となく野営の場所を決めると、森で食料探しを始めた。

急遽野営になってしまった場合、非常食は持っていても食い繋げるほどの食べ物なんてもちろん持っていない。


一言で野営と言っても、1年の間に所謂サバイバルの仕方を身につけると考えればこのくらい実践的でなければ本番では役に立たないだろう。



「これ食べれそうだぞ!」



飛鳥が取ってきた木の実を確認すると、どれも食べられる物ばかりだ。色も鮮やかで美味しそうだ。

とはいえ、1度先生に確認してもらうのがルールになっている。



「全部大丈夫だと思うけど、先生に見てもらおう。飛鳥って食べ物見つけてくるの上手だね。」



先程も野草やキノコを山ほど見つけて来てくれたばかりだ。食べ物を見つけるのが上手いというよりは、食べ物がありそうな場所を見つけるのが上手いんだろう。



「俺小さい頃からやってたからな〜!」
「そうなんだ。」
「真白は…下手くそだな! 食い意地張ってなさそうだもんな〜!」
「うっ…。」



飛鳥の言う通り、私はあまり食べ物に興味がない。1日くらい食べなくても生きていけるし、水があればいいと思っているのが事実だ。

とはいえ、あまりに嗅覚が弱いのも問題だが…。



「食い意地とかの問題じゃねぇだろ、それ。」



聖は呆れたように溜め息を吐きながら飛鳥とは別の木の実を足元に置いた。その目からは嫌悪感すら感じる。



「生きる意思があるかどうかなんじゃねぇの。」
「聖は厳しいな〜。得意不得意は誰にでもあんだろ。」
「うるせぇ。こんだけありゃ十分だろ、先生んとこ行くぞ。残り持って来い。」



聖はそっぽを向くと集めた食料の半分ほどを持って歩き始めてしまった。



「待てよ、聖! 真白、残り持てるか?」
「う、うん。」



私たちは慌てて残りの食料を持つと聖の後を追いかけた。

初めて会ったときからそうだが、恐らく私は聖に嫌われている。気のせいかと思っていたがここまでくると明確だ。



(何かしちゃったのかな…。)



聖の様子を伺うも、やはり原因は分からない。というか初対面のときからそうだったので心当たりがない。百音への態度ともまた違う。

人生が何度目でも人間関係の悩みはあるものなんだな…。

悲しくないといえば大嘘だ。基本5人でいることが多いのだから必然的に聖ともよく一緒にいるわけで、逆に聖はどうしてそんな私とも一緒にいてくれるのかもはや疑問だ。


先生に食べ物を確認してもらって野営場所に戻ったときには、明るかった空はすっかり暗くなり始めていた。


魔法を使わずに火を起こして、簡単に調理をして食事を摂る。その後は寝床を確保して就寝。明朝に授業終了だ。

本来であれば水源の確保や野生動物だけでなく敵への警戒もあるのだから、それがない分気楽なものだ。



(…とはいえ、心労がすごい…。)



この剥き出しの嫌悪感は大人にはない特有のものだ、任務では経験した記憶がない。正直かなり心を削られるものがある。



「この木の実美味いな!」
「飛鳥からしたら何でも美味いんじゃねぇの。」
「まぁな〜!」



わいわい盛り上がる2人を尻目に木の実を齧る。

もはや味が分からない。ひたすらに気まずい。ここまで聖に嫌悪感を剥き出しにされたのはさすがに初めてだ。


飛鳥は気遣ってくれているが、もはや何の意味も成していなかった。



(ここまでくるともう直接訊いた方がいいよね…。)