「真白!」
元気な声に振り返るといつにも増して機嫌が良さそうな百音がいた。
不思議に思って首を傾げると、そんな私に気がついて百音は手に持っていたトレーを少し高く持ち上げた。
「私、ハンバーグ大好きなの!」
今日の昼食のメニューはハンバーグらしい。百音のハンバーグにはソースがかかっていて、立ち昇る湯気とともに香りが漂ってくる。
食堂へ来たばかりでまだトレーすら取っていない私は、その光景に唾液が溢れるのを感じた。
「あっちで席取って待ってるね!」
「うん…!」
ここは寄宿舎の食堂。今日は休日なので百音は昼までのんびり寝ていたらしく、朝食のときには見かけなかった。
私は自分の分を受け取ると、百音と合流した。
「美味しい〜。」
ハンバーグを口いっぱい頬張り、嬉しそうに顔を綻ばせる百音は本当にハンバーグが好きなようだ。
そんな光景に微笑みながら私もハンバーグを口へと運ぶ。噛むたびに肉の味がしっかりとして非常に美味しい。
「いつも弟たちと奪い合いだから、こんな風に独り占めできて幸せだよ〜。」
「賑やかそうだね。」
「うるさいだけだよ。」
百音はいつものように笑ったけれど、その表情にはどこか優しさが滲んでいる。
兄弟どころか親の顔すら忘れてしまった私はそれが羨ましくて、同時に寂しかった。そんな私に気づいてか、百音は優しく笑った。
「今度私の家に一緒に帰ろ! 母さんも父さんも歓迎してくれるよ! いや。こ〜んな可愛い子が来てくれたら、私んちどころか村中お祭り騒ぎね!」
「……ありがとう。いつか、行ってみたいな。」
「うん!」
記憶がないことを、百音は知らない。
村が全滅した。その事実だけで気遣われるには十分だ。そんなことは知られなくていい。
「なんだ、どっか出かけんのかー?」
そんな声とともに私の隣にトレーが置かれた。
見上げるとそこには顔をキラキラさせた飛鳥がいた。その後ろを見やると聖と青もいる。
「何よ、私と真白の邪魔しないでよ。」
「ケチケチすんなよ! 席が空いてねぇんだからいいだろ!」
聖が無遠慮に百音の隣に座ると、百音は彼を睨みつけた。この2人はなぜかいつもこの調子だ。
こうなると分かっているのに、聖も聖でどうして百音の隣を選ぶのか…。
「ごめんね、でも本当に空いてるところがなくて。」
苦笑する青に首を振ると、彼は「ありがとう」と言って微笑んでから飛鳥の隣に座った。
テーブルは6人掛けだし3人が座ってもまだ余裕がある。それに私は彼らのことを邪魔だと思ったことはない。それはきっと、百音も同じだ。
「貸しだからね!」
「んだよそれ!」
勢い良く食べ始める飛鳥と行儀良く手を合わせる青は、もはや歪み合う2人を気にする素振りすら見せない。
いつの間にかこうして5人でいることが非常に多くなっていた。
最初に声をかけてくれたのは飛鳥だった。そのときもやはりこうして食堂で声をかけられたのだが、なぜその後一緒にいるようになったのかはまったく分からない。
ただ、こうして皆といるとすごく幸せな気持ちになる。それだけは確かだった。
「ねぇ、この後真白の部屋に行ってもいい!?」
不意に百音がこちらを向いて言った。
この寄宿舎では、同じ建物内で男女関係なく共同生活を送っている。
食堂、洗濯場や浴室とは別に各々個室が与えられている。個室は男女でフロアが分かれており、男子は女子の下の階だ。
男女間の部屋の行き来は時間によって制限はあるが、基本的に自由。
私は百音の誘いで頻繁に百音の部屋を訪れていた。そして今日はついに私の部屋らしい。
「私の部屋、何もないけどそれでもよければ…。」
そんなわけで昼食後は私の部屋へと移動した。
元気な声に振り返るといつにも増して機嫌が良さそうな百音がいた。
不思議に思って首を傾げると、そんな私に気がついて百音は手に持っていたトレーを少し高く持ち上げた。
「私、ハンバーグ大好きなの!」
今日の昼食のメニューはハンバーグらしい。百音のハンバーグにはソースがかかっていて、立ち昇る湯気とともに香りが漂ってくる。
食堂へ来たばかりでまだトレーすら取っていない私は、その光景に唾液が溢れるのを感じた。
「あっちで席取って待ってるね!」
「うん…!」
ここは寄宿舎の食堂。今日は休日なので百音は昼までのんびり寝ていたらしく、朝食のときには見かけなかった。
私は自分の分を受け取ると、百音と合流した。
「美味しい〜。」
ハンバーグを口いっぱい頬張り、嬉しそうに顔を綻ばせる百音は本当にハンバーグが好きなようだ。
そんな光景に微笑みながら私もハンバーグを口へと運ぶ。噛むたびに肉の味がしっかりとして非常に美味しい。
「いつも弟たちと奪い合いだから、こんな風に独り占めできて幸せだよ〜。」
「賑やかそうだね。」
「うるさいだけだよ。」
百音はいつものように笑ったけれど、その表情にはどこか優しさが滲んでいる。
兄弟どころか親の顔すら忘れてしまった私はそれが羨ましくて、同時に寂しかった。そんな私に気づいてか、百音は優しく笑った。
「今度私の家に一緒に帰ろ! 母さんも父さんも歓迎してくれるよ! いや。こ〜んな可愛い子が来てくれたら、私んちどころか村中お祭り騒ぎね!」
「……ありがとう。いつか、行ってみたいな。」
「うん!」
記憶がないことを、百音は知らない。
村が全滅した。その事実だけで気遣われるには十分だ。そんなことは知られなくていい。
「なんだ、どっか出かけんのかー?」
そんな声とともに私の隣にトレーが置かれた。
見上げるとそこには顔をキラキラさせた飛鳥がいた。その後ろを見やると聖と青もいる。
「何よ、私と真白の邪魔しないでよ。」
「ケチケチすんなよ! 席が空いてねぇんだからいいだろ!」
聖が無遠慮に百音の隣に座ると、百音は彼を睨みつけた。この2人はなぜかいつもこの調子だ。
こうなると分かっているのに、聖も聖でどうして百音の隣を選ぶのか…。
「ごめんね、でも本当に空いてるところがなくて。」
苦笑する青に首を振ると、彼は「ありがとう」と言って微笑んでから飛鳥の隣に座った。
テーブルは6人掛けだし3人が座ってもまだ余裕がある。それに私は彼らのことを邪魔だと思ったことはない。それはきっと、百音も同じだ。
「貸しだからね!」
「んだよそれ!」
勢い良く食べ始める飛鳥と行儀良く手を合わせる青は、もはや歪み合う2人を気にする素振りすら見せない。
いつの間にかこうして5人でいることが非常に多くなっていた。
最初に声をかけてくれたのは飛鳥だった。そのときもやはりこうして食堂で声をかけられたのだが、なぜその後一緒にいるようになったのかはまったく分からない。
ただ、こうして皆といるとすごく幸せな気持ちになる。それだけは確かだった。
「ねぇ、この後真白の部屋に行ってもいい!?」
不意に百音がこちらを向いて言った。
この寄宿舎では、同じ建物内で男女関係なく共同生活を送っている。
食堂、洗濯場や浴室とは別に各々個室が与えられている。個室は男女でフロアが分かれており、男子は女子の下の階だ。
男女間の部屋の行き来は時間によって制限はあるが、基本的に自由。
私は百音の誘いで頻繁に百音の部屋を訪れていた。そして今日はついに私の部屋らしい。
「私の部屋、何もないけどそれでもよければ…。」
そんなわけで昼食後は私の部屋へと移動した。