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「失礼します。」
「おぉ、八雲。」



執務室で仕事をしていたところ、八雲が報告書を持ってやって来た。

今日の特別講師の報告書だ。足心は持っていたペンを置いて八雲から報告書を受け取った。実はこの報告書がかなり楽しみだった。足心は早速目を通しながら八雲に尋ねた。



「どうじゃ、今年の訓練生は。」
「かなり期待できそうですね。今日が初めてにも関わらず、発現できてるのが何人かいましたから。」
「ほう、それはこれから先が楽しみじゃのぅ。」



足心は満足そうな笑みを浮かべるとそのまま頷いた。

今日の訓練は八雲による様子見も兼ねていた。守護隊にぜひ加入してもらいたい子には訓練終了前に選択肢としてこちらから声掛けを先に行う。初めての魔法訓練で天性のセンス、その後の訓練でも努力量や熱意などを確認する予定だ。



「で、真白はどうじゃった。」



足心は笑顔を消し、報告書から顔を上げて尋ねた。実際のところ今日の1番の気がかりはそこだ。



「もしかしたら、彼女は光属性を使えるのかもしれません。」
「なんと。……そうか…。」



足心は八雲の言葉に表情を険しくした。

まさか魔法をかけられているだけでなく、彼女自身が使い手の可能性が浮上するとは。



「初めての魔法発現で全属性を発現。その後、訓練なしで特定の属性を発現、手元から離した状態でコントロールまでしていましたからね。」



八雲は数時間前のことを思い出していた。

飛鳥という少年が風の塊を抑え切れなかった時、咄嗟に八雲も水の塊を投げた。水の塊が真白の物とぶつかって融合した瞬間、八雲はコントロールを止めた。すぐにサポートに入れる体制は取っていたが、全コントロールを真白に委ねたのだ。



「おぉ…。それは光属性が使えなくともかなりの使い手になろう。」
「えぇ。センスだけで言えば既に俺より遥かに上です。判断力も良い。そこに訓練や本人の努力が加わったらどうなることやら、末恐ろしい限りです。」



八雲が溜め息を吐きながらそう言うと、足心は笑みを溢した。八雲がここまで言うとは。



「しかし光属性とは…。」
「もしかしたら村が滅ぼされた後、自己防衛として自分に記憶を封じる魔法を…。」
「うむ…。可能性としては0ではないな…。」



足心は手に持っていた報告書を机に置くと両腕を組んだ。光属性はこちらでは確認のしようがない。何より光属性自体が稀少すぎて情報が少なすぎる。

どれも可能性の域を出ないが、有り得ない話ではない。敵か味方かの判断はより困難になった。



「ひとまず引き続き様子見じゃな。訓練所の方には儂から伝えておこう。」
「はい。」
「ところで、八雲。」
「はい?」



足心は八雲の顔を正面から真っ直ぐに見つめた。八雲は不思議そうに首を傾げた。

豪からも報告を受けているが、やはり平時とは様子が少し違うように感じる。これは付き合いの長さがあるからこそ微かに感じられる程度のものではあるが…。



「お主、個人的には真白をどう思う。」
「どう…と言いますと?」
「いやな…。」



足心をもってしてもその違和感を上手く言葉にすることは難しく、語尾を濁すしかなかった。豪の奴がまた余計な心配を回したのだろうと八雲は察した。



「……少し不思議な感じがするんです。」



八雲は自分の右手の平に視線を落とした。俺と真白の水の塊が融合した時、不思議な感覚がした。それ以前に、あの雪原で初めて会った時にも…。



「…そうか。何かあればいつでも声をかけてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」



八雲はそのまま踵を返すと部屋から退出した。足心は扉が閉まったのを確認すると、再び報告書を手に取り大きく溜め息を1つ溢した。心配の種は尽きないものだ。