「これ…?」
「日記帳。10年分だよ。」
日記帳から顔を上げると八雲さんは相変わらず笑っていたが、その表情からはいろいろな感情が見てとれた。
私は結局、八雲さんと再会する以前の記憶を取り戻せずにいた。とはいえ八雲さんを救うという最終目標は思い出せたからとあまり気にしないようにしていたのだが、やはり顔に出ていたのだろうか。
「失くなった記憶はもう取り戻せないかもしれない。でも、これからまた大切に積み上げていけばいい。」
ずっと気にかけてくれていたんだろうか。八雲さんに保護されてからもうすぐ一月が経とうとしている。忙しい身の上だというのに、あれからずっと…?
私は日記帳を胸にギュッと抱いた。嬉しくて涙が出そうだ。
「ありがとうございます、八雲さん。」
「いいえ。」
「私、大切にします。」
この日記帳も、八雲と一緒にいられる奇跡のようなこの日々も、全部全部。そんな思いを込めて八雲さんに笑顔を見せた。
「よし、皆の所に戻るか。」
「はい。」
私は木材の上から降りると、今度は八雲さんに促されることなく足を動かした。
チラッと横を見ると八雲さんの顔はずっと上の方にあった。私、横に並んで歩くに相応しくならないと。じゃないと私の目的は果たせない。横にいても恥ずかしくないくらい強くならないと。
「あ、真白戻って来た!」
私を見つけると真っ先に百音が駆け寄って来た。百音はそのまま私に抱き着くと横目で八雲さんを睨みつけた。
「大丈夫? この人に何か変なことされたり虐められたりしてない?」
私の体を上から下へと確認しながらそんなことを訊く。八雲さんは百音の反応にまたしても苦笑していた。
「大丈夫だよ。」
「本当? 何かあったら言うんだよ! いつも言ってるけど真白は私が守るんだから!」
そう言って百音はグッと拳を握った。私は百音のそんな姿に素直に感動してしまって少し泣きそうになった。
私の目的は八雲さんを守ること。それは総隊長を守ることであり、ゆくゆくは国を守ることに繋がる。その国の中にはもちろんそこに暮らす皆のことも含まれているわけで、私が百音たちのことも守るんだと意気込んでいた。
なのにいつの間にか私の方が守られている。
いつの間にか聖と青も集まって来て、私のことを心配してくれているようだ。そんな私たちを見て八雲さんは優しく笑っていた。
「ありがとう、百音、皆。」
満面の笑顔でそれに応えると皆は満足そうに笑った。
「できたー!!」
和やかな空気の中、少し離れた所で叫び声が上がった。そちらを見ると飛鳥が汗だくになりながら手の平の上に小さな風の塊を浮かべていた。あれからずっと頑張っていたらしく喜びが溢れる笑顔が眩しい。
飛鳥はこちらを向くと「俺も!」と叫んだ。どうやら話は聞こえていたらしい。
とその瞬間、飛鳥の集中が切れた。
手の平に留まっていた風の塊が飛鳥の手を離れる。通常ならそのまま消えてしまうはずだが、どうやら様子が違う。
「まずいね。」
隣の八雲さんが小さな声で呟いた。私も同意だ。風の塊は強風を圧縮した状態のようだ。必死にやりすぎた結果、魔力を込めすぎたんだろう。弾ければカマイタチがそこら中を飛び交う可能性が高い。
先生はまだ状況に気付いていない。
いろいろと考える前に体が動いた。右手に魔力を集中させる。風を相殺するためには風をぶつけるか、それとも。一瞬考えた末、私は右手に水の塊を発現させた。先程の演習時よりも大きく、風の塊を包み込めるほどの大きさだ。
私はボールを投げるかのように水の塊を風の塊に向かって投げつけた。とその時、隣からも同じように水の塊が飛んだ。2つの水の塊は途中でぶつかって1つに融合するとそのまま風の塊を包み込んだ。
このままでは風で水が飛ばされてしまう。だが私は確信していた。
(コントロール、できる。)
私はグッと水の塊の外側の水圧を上げた。そうこうしているうちに風の塊は水の塊の中で弾けた。風が水を巻き込んで塊内で強烈な水流を生み出す。それを通さないようさらに水の塊の外側の水圧を上げるも、水の塊は水流に押されてボコボコと歪に形を変えた。
時間にしてほんの数秒だったに違いない。水流が収まったのを確認すると私は集中はそのままに肩の力を抜いた。
「良くやったな。」
八雲さんは私の頭を一撫ですると、崩れかけた水の塊をそのまま適当な所へ移動させてから完全に崩した。
あの時融合したのは八雲さんが投げた水の塊だったのか。無意識に全く同じ行動を取っていたようだ。道理でコントロールが上手くできたわけだ。何なら私はコントロールできたつもりになっていただけかもしれない。
2度目の人生では一緒に魔法を使ったのは初めてだった。なのにしっくりとくる、この感じ。私は右手の拳を握り締めた。
その後飛鳥からは猛烈な謝罪と感謝を受けたのは言うまでもない。
「日記帳。10年分だよ。」
日記帳から顔を上げると八雲さんは相変わらず笑っていたが、その表情からはいろいろな感情が見てとれた。
私は結局、八雲さんと再会する以前の記憶を取り戻せずにいた。とはいえ八雲さんを救うという最終目標は思い出せたからとあまり気にしないようにしていたのだが、やはり顔に出ていたのだろうか。
「失くなった記憶はもう取り戻せないかもしれない。でも、これからまた大切に積み上げていけばいい。」
ずっと気にかけてくれていたんだろうか。八雲さんに保護されてからもうすぐ一月が経とうとしている。忙しい身の上だというのに、あれからずっと…?
私は日記帳を胸にギュッと抱いた。嬉しくて涙が出そうだ。
「ありがとうございます、八雲さん。」
「いいえ。」
「私、大切にします。」
この日記帳も、八雲と一緒にいられる奇跡のようなこの日々も、全部全部。そんな思いを込めて八雲さんに笑顔を見せた。
「よし、皆の所に戻るか。」
「はい。」
私は木材の上から降りると、今度は八雲さんに促されることなく足を動かした。
チラッと横を見ると八雲さんの顔はずっと上の方にあった。私、横に並んで歩くに相応しくならないと。じゃないと私の目的は果たせない。横にいても恥ずかしくないくらい強くならないと。
「あ、真白戻って来た!」
私を見つけると真っ先に百音が駆け寄って来た。百音はそのまま私に抱き着くと横目で八雲さんを睨みつけた。
「大丈夫? この人に何か変なことされたり虐められたりしてない?」
私の体を上から下へと確認しながらそんなことを訊く。八雲さんは百音の反応にまたしても苦笑していた。
「大丈夫だよ。」
「本当? 何かあったら言うんだよ! いつも言ってるけど真白は私が守るんだから!」
そう言って百音はグッと拳を握った。私は百音のそんな姿に素直に感動してしまって少し泣きそうになった。
私の目的は八雲さんを守ること。それは総隊長を守ることであり、ゆくゆくは国を守ることに繋がる。その国の中にはもちろんそこに暮らす皆のことも含まれているわけで、私が百音たちのことも守るんだと意気込んでいた。
なのにいつの間にか私の方が守られている。
いつの間にか聖と青も集まって来て、私のことを心配してくれているようだ。そんな私たちを見て八雲さんは優しく笑っていた。
「ありがとう、百音、皆。」
満面の笑顔でそれに応えると皆は満足そうに笑った。
「できたー!!」
和やかな空気の中、少し離れた所で叫び声が上がった。そちらを見ると飛鳥が汗だくになりながら手の平の上に小さな風の塊を浮かべていた。あれからずっと頑張っていたらしく喜びが溢れる笑顔が眩しい。
飛鳥はこちらを向くと「俺も!」と叫んだ。どうやら話は聞こえていたらしい。
とその瞬間、飛鳥の集中が切れた。
手の平に留まっていた風の塊が飛鳥の手を離れる。通常ならそのまま消えてしまうはずだが、どうやら様子が違う。
「まずいね。」
隣の八雲さんが小さな声で呟いた。私も同意だ。風の塊は強風を圧縮した状態のようだ。必死にやりすぎた結果、魔力を込めすぎたんだろう。弾ければカマイタチがそこら中を飛び交う可能性が高い。
先生はまだ状況に気付いていない。
いろいろと考える前に体が動いた。右手に魔力を集中させる。風を相殺するためには風をぶつけるか、それとも。一瞬考えた末、私は右手に水の塊を発現させた。先程の演習時よりも大きく、風の塊を包み込めるほどの大きさだ。
私はボールを投げるかのように水の塊を風の塊に向かって投げつけた。とその時、隣からも同じように水の塊が飛んだ。2つの水の塊は途中でぶつかって1つに融合するとそのまま風の塊を包み込んだ。
このままでは風で水が飛ばされてしまう。だが私は確信していた。
(コントロール、できる。)
私はグッと水の塊の外側の水圧を上げた。そうこうしているうちに風の塊は水の塊の中で弾けた。風が水を巻き込んで塊内で強烈な水流を生み出す。それを通さないようさらに水の塊の外側の水圧を上げるも、水の塊は水流に押されてボコボコと歪に形を変えた。
時間にしてほんの数秒だったに違いない。水流が収まったのを確認すると私は集中はそのままに肩の力を抜いた。
「良くやったな。」
八雲さんは私の頭を一撫ですると、崩れかけた水の塊をそのまま適当な所へ移動させてから完全に崩した。
あの時融合したのは八雲さんが投げた水の塊だったのか。無意識に全く同じ行動を取っていたようだ。道理でコントロールが上手くできたわけだ。何なら私はコントロールできたつもりになっていただけかもしれない。
2度目の人生では一緒に魔法を使ったのは初めてだった。なのにしっくりとくる、この感じ。私は右手の拳を握り締めた。
その後飛鳥からは猛烈な謝罪と感謝を受けたのは言うまでもない。