「なんか、、ごめんなさい」

坂井君がひとつ大きなため息をついた。

「椿ちゃんは誠太郎の恋人になりたいとか思わないの?」

「え?」

「俺は誠太郎といることが多いから、俺を利用してあいつに近づこうとする女の子はこれまで何人もいたんだ。椿ちゃんにそんなつもりがないのはわかってるけど、誠太郎のこと好きなんだろ?椿ちゃん、俺を利用したい?」

岩泉君に近づくために坂井君を利用する、、思いもよらないことを突然言われて一瞬思考が止まったが、私はそんなことは望んでいない。

「坂井君を利用するだなんて、そんなことできるわけないよ。それに岩泉君と恋人なんて、想像しただけでもショック死しちゃいそう、、」

「ショック死って、そんなオーバーな。あいつにとって恋人は、そんな大層なものではないと思うけど?」

坂井君の言っている意味がわからず、首を傾げてしまう。

「え?知らない?誠太郎の周りにいつもいる女の子達、あれみんな恋人だよ?」

確かに岩泉君の周りにはいつも数人の女の子達がベッタリくっついている。彼女達全員が恋人だとしたら、常に同じ人ではなかった気がするので、その人数は片手では足りないだろう。

「え?ちょっと待って?岩泉君て、何人恋人がいるの?」

「いやーそれは本人もわからないんじゃない?来る者は拒まず去る者も追わずだから。女の子達も最初の内はそれでもいいって近づいて来るけど、ほとんどの子がすぐに離れてく。そりゃそうだよね、あいつは彼女達が望むものをひとつも与えないんだから」

「望むもの?」

「恋人には、自分と同じ想いを返して欲しいと望むものだろ?でも誠太郎は、相手に勘違いさせる隙すら与えようとしないんだ。来る者を拒まないのは、効率よく遠ざけるための手段なのかもって思わなくもないけど」

「なんでそんな、、」

「誠太郎の周りには女の子達が群がって、争って、問題ばかり起きてたんだ。幼稚舎の頃からずっとだよ。そりゃうんざりしちゃうよね?だからかな?あいつばっかりモテてもそれほど羨ましいとは思えないし、余波で俺まで女性不信になりそう」

「なんていうか、、大変だね、、」

「まーどうせあいつは将来親が選んだ相手と結婚するって割り切ってるみたいだし、一番面倒臭くない方法を模索した結果が、今のハーレム状態なのかも」

「ハーレム、、」

岩泉君は人を好きになったことがあるんだろうか。坂井君の話を聞く限り、例えあったとしても、それはあまりいい思い出ではないのかもしれない。

彼は将来、所謂政略結婚をするらしい。政略結婚でも幸せになることはできるはずだ。

そうであって欲しい。そうなりますように。

自分とは関係のない話ではあるが、なんとなくそう願わずにはいられなかった。