俺はこの8年間のことを彼女に話した。もちろんストーカー紛いのくだりは省いて。

「そんな、副社長が私を好きだなんて、そんなの信じられません」

「副社長だなんて呼ばないで?この8年、俺は安田さんの為だけに必死で頑張ってたんだ。安田さんは俺のことなんてもう好きじゃない?ほとんど会話もしたことない俺に好きだと言われても、気持ち悪いだけ?」

「気持ち悪いだなんてそんなこと、、でも私は副しゃ、い岩泉君とはほとんど面識がなかったし、好きとかそういうのは、、」

「面識はなくても安田さんは誰よりも俺に詳しいだろ?俺の趣味は?好きな音楽は?休みの日の過ごし方は?俺の素の性格や普段の様子だって啓介から聞いてるはずだ」

「そ、それはそうですけど、、」

「俺だって安田さんのこと知ってるよ?君はアラビア語が大好きで、いつも楽しそうに授業を受けていた。女の子達から嫌がらせをされてたのに啓介を見捨てられない優しい子なのも知ってる。真面目で一生懸命仕事に取り組んでるから社内での評価も高い。慎重で疑り深いのに、ちょっと抜けてるところがかわいい。すぐに照れてしまうところも、目をキラキラさせながら話すところも、全部かわいい」

俺の熱弁ぶりに、彼女は呆気にとられたような顔をして、ただ瞬きを繰り返していた。蛇足だが、そんな彼女もかわいい。

その日から帰国するまでの間、俺は暇を見つけては彼女を口説き続けた。さりげなく部下を連れて姿を消してくれていた小野寺さんには感謝しかない。

「俺達に足りないのは一緒に過ごせる時間だけだと思う。でも社内では人の目があり過ぎてまともに話すこともできない。だから帰国後もこうして安田さんと二人で会う為に、どうか俺の恋人になって欲しいんだ」

本当はすぐにでも結婚してしまいたいくらいだが、焦りは禁物だ。

「俺は安田さんを好きになって初めて幸せを感じることができたんだ。安田さんも俺と同じように幸せを感じてくれたら、それはきっと、この上ない幸せなんだと思う。お願いだからうんと言って?」

「わかりましたから!私も岩泉君のこと好きなんで、もう本当に勘弁して下さい!」

彼女の言い回しが若干微妙な気もするが、帰国前夜、遂に俺は彼女の恋人になれたのだ。

幸せ過ぎて死んでしまうかと思ったが、駄目だ、まだ死ねない。きっとこれからたくさんの幸せが俺達を待ってるはずだから。

今の俺なら結婚までの道筋を考えることすら楽しめるだろう。

俺の恋はこれからが本番だ。

(完)