父さんは思考を巡らせているらしく、しばしの間、沈黙が続く。

「ちなみに、彼女の気持ちはお前に向いているのか?」

「そうであって欲しいですが、正直確証はありません。坂井を通じてお互いのことを十分知り合う仲ではありますが、彼女が同じように想いを強くしてくれたかは知りようがないので」

「そもそも、お前と同じ学校でわざわざアラビア語を勉強しようとする女性が、お前との結婚をよしとするとは思えないんだが、、腰掛けで就職を考えるタイプではなさそうだ」

「それは、、そうかもしれません」

更に沈黙が続く。

「もし、私が結婚を反対し、力添えを拒否したらどうする?」

「力添えを頂いた上で願いが叶わなければ、それは自分の能力不足ですから諦めざるをえません。ですが、はなから反対されたとなれば、自身の重要度を優先させ、可能な限り抗うつもりです」

父さんが大きくため息をついた。

「残念ながらお前の提案は穴があり過ぎてリスクが高い。不確定要素が多過ぎる。もしうまくいったとしても、私側の譲歩ありきで、到底納得できるものではない。違うか?」

「、、はい。おっしゃる通りです」

「リスクヘッジが必要だ。彼女の就職に関しては手を打とう。ただし、役員面接で最低限の人となりを見て、問題があれば内定は出さない。そしてお前に関しては、3年間三角商事で様子を見る。必死に働いて成果を出せ。それでも気持ちが変わらなければ、三角エネルギーに出向させてやる。当然その間彼女の動向も見させてもらう」

「、、はい。わかりました」

何が譲歩だ。完全に逃げ道を塞がれ、更なる我慢を強いられ、より達成が困難になった。そしてさりげなく結婚の許可ももらえていない。

悔しいが、やはり父さんには敵わない。ギリギリ乗り越えられそうなラインを狙ってくるところが何ともいやらしい。

「お前もまだまだ甘ちゃんだな?精々頑張って純愛が成就するところを見せてくれ。孫を抱ける日が待ち遠しいな?」

とっくの昔に反抗期は終わったはずだが、むかつきが止まらない。俺と彼女の子供は絶対に父さんには抱かせないと決意した。

とりあえず宗次郎さんに連絡をとって、彼女を三角エネルギーに誘導しなくては何も始まらない。

俺自身も早々に動き出さなければ、父さんが望む結果を3年で出すことは厳しい。かなりの努力を要するだろう。

そして残り4年半。俺はともかく、彼女の気持ちを繋ぎ止めることが果たしてできるのだろうか。更には父さんの指摘通り、彼女が俺との結婚に応じてくれるかもわからないのだ。

「前途多難だな、、」

ため息をついた後、俺は宗次郎さんに電話をかけ、早速協力を仰ぐことにした。