今世では幸せにする~天才召喚士オルタンシアは自ら召喚され、一生をソナタに捧げたい。

 日中は働き、夜中に少しの間だけオルタンシア様から召喚魔法を教えてもらう。そんな日々を送るようになった。

オルタンシア様はあちこち色々な国へ行っていたから会えない日もあったけれども、そんな時は「お土産だ」と、見たことのないクッキーや素敵なブレスレットもプレゼントしてくれた。

 そんな日々を過ごしていたけれど、ある日リーダー格の先輩メイド、ジャスミン先輩に「あんた、何か隠し事してない?」と、第三皇子ブトンの部屋を掃除中、こっそりと問い詰められた。

「何のことでしょうか?」
「私、あなたが夜中抜けだしてること、知っていたのよ。そして先日、後をつけてみたの」

 もしかして、バレた?
 気持ちの良くない汗が全身から流れ、私は何も答えられずにいた。

「あなた、オルタンシア様と密会してるでしょ?」

「はい」と認めてしまえばどうなるか分からない。何かいいアイディアはないか、私は私の全細胞を使い考えた。

「甘いものは、お好きですか?」

 答えとは全く関係のない質問を先輩に投げる。先輩は質問を受け取ってくれるのか、緊張しながら様子を伺った。

「好きよ。大好きよ!」
「あの、先輩。素敵なお菓子があるのですが……」

 私はエプロンのポケットから、三日月が描かれたお洒落な袋に包まれたクッキーを出す。あとでこっそり間食しようとしていたお菓子。もちろんオルタンシア様からいただいたもの。

「まぁ、こんな素敵なお菓子いただけるの? 初めて見たわ!」
「いつも先輩にはお世話になっていますので。折り入ってお願いがあるのですが……」
「何よ、言ってごらんなさいよ」

 いつもよりも高く弾んだ声。あきらかにジャスミン先輩のご機嫌は良い。それもそうだ。私たちメイドにとってクッキーは高級なものでなかなか食すことはできないのだから。

「お、美味しい……こんな美味しいもの初めて食べたわ」

 先輩は目を丸くして驚いていた。
 というかここで食べても良いのかしら? ここはブトン皇子の部屋なのに。それよりも、今なら私の願いを聞いてくれるかもしれない。

「夜中に先輩がご覧になられたことはご内密にしていただきたいのですが……」
「そんなこと? いいわよ! その代わり、またおすそ分けちょうだいよ」
「はい! ありがとうございます」

 私は先輩に向かって、丁寧にお辞儀をした。その日を境に、オルタンシア様との密会が周りにバレそうになった時は「その時間私たちは一緒にいた」などと、アリバイ工作を手伝ってくれた。
 

***

 オルタンシア様から召喚魔法を教わり、半年が経過した。

「よし、完璧だな」
「ありがとうございます」

 今では、少ない魔力でもカーバンクルを軽々出せるようになった。そしてカーバンクルの能力である、人を心身ともに元気にする力も指示すると使ってくれるようにもなった。ちなみにカーバンクルは攻撃系の召喚獣ではないから、護衛の召喚獣から除外されている。

「試験が合格したら、当日、相性の合う召喚獣が入った魔石を体内に取り込むことになるのでしたよね?」
「あぁ、そうだ」
「私、カーバンクルがいいな……」

 練習で使っていくうちに、カーバンクルに対しての情が湧いてきていた。

「この子がいいのか?」
「……はい。というか、これはただのワガママですよね! 召喚魔法が使えるだけで贅沢なのに」
「そんなことはない。カーバンクルがいいのか……」

 オルタンシア様は顎に手を当て考え事をしていた。

「今のお話、なかったことにしていいですから……では、試験の日はよろしくお願いいたします」

***

 そうして私はついに試験の日を迎えた。

 当日の移動手段である馬車は、オルタンシア様が手配してくれた。普段乗っている馬車とは違い、全てが立派。長時間座っていてもお尻が痛くないふわふわな椅子。内装も私が好きな花柄模様の煌めくデザイン。なので、馬車に乗った朝から気分が高まっている。


 試験会場である滅多にお目にかかれない立派な神殿に着くと、中で受付をすませた。

 オルタンシア様は、どちらにいらっしゃるのかしら。

 長い廊下を進んでいくと、広場へ続く扉があり、そこは開いていた。中を覗くとオルタンシア様がいた。試験を受ける人たちがずらっと並んでいる。男性は高級そうなタキシード、女性は華やかなドレス。私も持っている中で一番華やかな、唯一のピンク色のドレスを着てきたけれども、場違いかな?と思うほどにくすんでいて地味。

 けれども今日はファッションショーではなくて、召喚魔法の試験日。気にしないでいこう。私は一番後ろに並んだ。

 試験を受ける人は、二十人くらいか――。

 黒いローブを纏い書類を持つ、比較的年齢が高めな審査員が男女五人並んでいた。オルタンシア様は胸に手をやり深呼吸している。

 オルタンシア様、緊張しているのかしら?

 見つめていると、オルタンシア様と目が合った。ふたり同時に、軽く会釈した。

「早速ですが試験を始めます。それでは一番の方、前へどうぞ」と、審査員の一番お年を召しているお婆さんの言葉を皮切りに、審査が始まった。

「それでは、試験用の魔力を本日試験を受けられる皆様に与えますので、この並べられた魔法石からお好きなものを選んで召喚獣を出し、命令をしてください」

 一番目の受験者の、柔らかな雰囲気で同じくらいの歳に見える男の人が前に出た。同時に色や形が様々な魔法石が、長テーブルの上に10程並べられた。男の人は真ん中辺りの一番大きな水色の魔法石を手に取った。その男は魔法石を左の手のひらに乗せ、右手を魔法石にかざすと、その魔法石は輝き、水色の竜が出てきた。

 召喚獣と共鳴すると、その召喚獣がどんな攻撃の技が使えるのか頭の中に浮かび上がるらしい。

「召喚獣よ、空に向かって水を吐くのだ」と、男が叫ぶと竜は空に向かって噴水のように水を吐いた。

――もしかして、全ての召喚獣がこんなに強そうなの? というか、私が選んだ魔法石からも召喚獣が出てきて、共鳴してくれるのかしら。

 心配をよそに、試験は進んでいく。中には上手く共鳴できない人もいた。

 そしてついに、私の番が来た。
 緊張が溢れて手が震えてくる。

 無意識にオルタンシア様の方を向いたけれど、オルタンシア様はいなかった。

 私の番なのに、どうして――?

 お手洗いに行ったのかしら。オルタンシア様がいなくて少しだけ不安な気持ちが押し寄せてきた。

「20番目の方、お願いいたします」

 きっと大丈夫、上手くいくわ!と自分に言い聞かせる。

 審査員の声を合図に私は並んだ魔法石の前に立った。常に補充され、テーブルの上には、10種類の魔法石が置かれていた。
 
 どれにしようか悩む。相性の良い魔法石はすぐに分かるらしいけれども、少しも分からない。と、思っていたら、突然ひとつの薄紫色の小さく丸みを帯びた魔法石が輝いているように見えた。それは多分、私だけがその変化に気がついたのだろう。

 こういうふうになるのね。

 念の為に他の魔法石もひとつひとつ手をかざし確認してみたけれどぱっとするものはなかった。

――やはり、これだわ。

 魔法石を左手のひらに乗せ、右手をかざすと、魔法石と私が共鳴したからなのか、輝きだした。そして何故か、オルタンシア様のお姿が頭の中で浮かび上がる。

 何故召喚獣が思い浮かばないのかしら?
 まさか、オルタンシア様を召喚するなんてことあるはずが……あった。

 会場がざわめく。
 私も思わず「何故?」と大きな声で叫んでしまった。

 それは、魔法石から出てきたのはオルタンシア様だったから――。

「どうしてオルタンシア様が?」
「それは今、マーガレットに召喚されたからだ。自分が召喚獣だ」
「いや……でも……」

 何? どうすればよいの?
 オルタンシア様は堂々と〝私に召喚された〟〝自分が召喚獣〟と主張なさっている。

 私は他の審査員の方に視線を向けた。
 ずっと全員がどよめいている。おそらく誰もオルタンシア様のその話を試験前に聞いてはいなかったからだろう。

「で、では。全ての受験生の試験は終わりましたので、三十分後に結果発表を行います」

 司会をしていたベテラン召喚士が驚きすぎたのか、口を開いたまま止まっていたので一番若い男の召喚士が代わりに進行した。

 他の生徒たちは試験会場から離れていく。オルタンシア様も審査員たちに呼ばれて、私から離れていった。私も時間が来るまで、外で散歩をすることにした。この流れの意味が理解できずに、待っている間、ずっと胸の奥がそわそわしていた。

 そして結果発表の時間がついに来た。

「それでは、番号を呼ばれた者は前へ」

 召喚魔法は使えたけれど、魔法石から出てきたのはなんとオルタンシア様で。

 合格なのか、不合格なのか。全く予想ができない。

「1番、3番、6番……」

 番号は想像よりも飛ばされている様子。より緊張は高まる。

「8番、11番、15番、16番……」

 私は胸の辺りで手を組み、複雑な気持ちを抱きながらも呼ばれますようにとお祈りをした。

「そして、20番」

――呼ばれた!

「はい!」と返事をすると、前に出た。
 出たけれども、私の召喚獣となるオルタンシア様は審査員たちのところに並んでいた。オルタンシア様のお考えは却下されたのかしら。

 試験に合格すると、人間と召喚獣が一生一緒にいられるように、魔法石が人間の体内に入り、心臓の一部となる。人間の心臓が動き続ける限り共に過ごす、運命共同体となる。すなわち、人間の死により、召喚獣は開放されるということ。

 1番目の男の人の前に、この国でトップの召喚士が立った。召喚士は手に魔法石を持っていて、男の人の胸元に魔法石を当てると虹色に輝き、あっという間に男の人の胸の中に吸い込まれていった。そして次々と儀式は続いていき、ついに私の順番が来た。

「あの、結局私はどの召喚獣が?」

 答えを求めていると、オルタンシア様が目の前に立つ。手には魔法石を持っている。

「自分でいいか?」
「いや、いいかと聞かれましても……」

 動揺していると、オルタンシア様が私の胸の近くに魔法石をかざしてきた。

 いいかと聞いただけで、私はまだ何も答えを出してはいない。なのに魔法石をかざしてきて、なんだか自分勝手。私の意見は無視なの?

 そして、その魔法石は虹色に輝きついに私の中へ。だけど、オルタンシア様は目の前で立ったまま。


……オルタンシア様はそのまま? だとしたら、今私の中に入っていった魔法石には何の召喚獣が入っているというの?

「オルタンシア様、私の召喚獣は――?」
「自分だ」

――本当に、オルタンシア様が私の召喚獣に?

 オルタンシア様は真剣な眼差しで、私を見つめた。