夕暮れ時、海沿いを歩いていると天使のような歌声が聞こえてきた。
そこにはセーラー服を着た少女が足をぷらぷらさせながら座っている姿があった。
綺麗だと近くでひっそり聞いているとその天使のような歌声が次第に震え始めた。
思わず少女を見ると、夕日に照らされた彼女の瞳からは涙が流れていた。
彼女は苦しそうにしながら泣いた後立ち上がった。
迷わず進む彼女の行く先は海だった。
躊躇いなく海に入った彼女は覚悟が出来ているようだった。
急いで僕は彼女を追いかけ海に入った。
冬の海はひどく冷たく心臓が飛び上がるようだった。
勇気を出して彼女に声をかけた。
「こんな真冬に海に入っちゃ寒いからもう出ようよ!」
「放っておいて、!!」
彼女は体をビクつかせた後、勢い良く振り向き僕に叫んだ。
彼女の泣き腫らした赤い瞳に胸が苦しくなった。
触れる距離に追いついた僕は彼女の手を掴み海の外へ出るよう連れていった。
兎に角僕は必死で海から出ようと歩いた。
「放して!!関係ないじゃない!!」
彼女は泣き叫び僕の手を振り払おうとしたが男女の力の差では振り払えずやるせなくうなだれた。
とりあえず海から出ることが出来た。
冬の海に2人とも浸かってしまってこのままでは風邪をひいてしまうが、僕の一人暮らしの家にセーラー服を着た少女を招き入れるのも気が引ける。誰にも言わず1人で死のうとした彼女の事だから家に帰した所で家族にも相談せずまた海に来て死なれるのも嫌だしまず悩みの種が家族かもしれないしどうしたもんかと悩み1つ提案をした。
「家に帰しても不安だから警察に送ろうか?警察は嫌?」
「嫌よ。私何ひとつ悪いことしていないもの。警察のお世話になる必要はないわ。」
彼女は僕を睨みながらそう言った。
僕の提案が心外だったのか苛立っているようだった。
「そっか、ごめんね。でもこのままでは風邪をひいてしまうよ。僕の家は近いけれど一人暮らしなんだ僕。危ないからね。」
「警察に行くよりかはまし。」
「そうかい。こんなに気軽に知らない人の家へ行ってはいけないよ。まぁじゃあとりあえず僕の家近くだから行こうか。」

「はい、タオル。適当に座ってていいからね。ホットココア飲める?本当はシャワー浴びた方がいいけれど知らない人の家でシャワーは怖いよね?」
家に着き、お風呂のお湯を入れようとスイッチを押してからストーブをつけた後お湯を沸かしながら僕はそう聞いた。
「飲める。怖くないよ。」
「じゃあ浴びておいで。これタオル。今お湯を張ってるから、お湯が溜まったら温まってもいいよ。」
彼女はタオルを抱えてお風呂に行った。
僕の隣の家には見知らぬお姉さんが住んでいる。男の僕と2人きりより女性がいる方が安心だろう。
「すみません。」
隣の家のインターフォンを押してそう言った。
「どうされました?」
「えぇと、隣の者なのですが重いお話があって。」
「出ますね。」
僕の暗い声で察してくれたのか家の外へ出てきてくれるようだ。
「すみません、ありがとうございます。先程海で少女が自殺をしようとしていた所を引き止め、警察に連れていこうとしたんですが警察は嫌と言われ連れ帰ってきたんですが男の僕と2人きりよりお姉さんと一緒の方が安心かと思いまして、お姉さんを巻き込んでもよろしいでしょうか?」
「そういうことなら構いませんよ。」
「すみません。ありがとうございます。」
お姉さんと一緒に部屋へ戻ったはいいが着替えはどうしようか。服は気持ち悪いだろうが僕の服を着てもらうにしろ下着はコンビニにでも買いに行くか。
「すみません、恐らく彼女の下着も濡れてしまっていて風邪をひくと良くないのでコンビニに買いに行こうと思うのですがここをお願いしても大丈夫ですか?」
「いえ、構いませんが、私が買いに行くほうがいいかもしれません。お風呂から出たら知らない私がいて彼女が驚くといけませんし。」
「たしかに。ではコンビニに行くのをお願いしてもよろしいでしょうか?5000円お渡しいたします。」
「大丈夫ですよ。お金は結構ですよ。」
「いえ、良くないですよ。」
無理やりお金を渡してからお姉さんはコンビニに買いに行ってくれた。お隣さんが優しい方でよかった。
インターフォンがなり出るとお姉さんが立っていた。
「すみません、ありがとうございます。」
「構いませんよ。彼女、お風呂から出てきました?」
「いえ、まだです。」
「良かった。間に合ったんですね。しかし、お風呂に入って何分経ってます?」
「20分くらいでしょうか?」
「もう一度自殺を図ろうとするかもしれませんので、生きているかノックした方がいいかもしれません。」
「たしかに、そうですよね。」
僕は立ち上がりお風呂場へ向かった。
「大丈夫??生きてる??」
急いでお風呂場の扉をノックし、そう聞いてみたが返答は無かった。
「ど、どうしましょう!?」
焦ってお姉さんの方に振り向くとお姉さんは顎に手を当て考えていた。
「私が開けた方が良さそうですね。、開けるわね。」
お姉さんはそう言い、扉を開けた。
「大丈夫ですか!?」
彼女の裸を見てはいけないと思い自分の足下を見ながらそう言った。
「いいえ、倒れてる!タオルを!」
「はい!」
急いでタオルを渡し、タオルを被せてくれていそうと予想し僕も急いで駆けつけた。
腕を触り脈を測ったが幸いな事に脈はあった。
「息はしている?」
「はい、脈はあります。、良かった。」
「大丈夫!?」
僕は彼女の手をとんとん叩きそう聞くと唸りながら起きた。
「なん、で、死なせてくれないの、もう生きたくない。」
目が覚め自分が生きている事を悟った彼女は悲しそうに泣きそう言った。
「ごめんね。本当に。」
ひどい事をしていることに自覚があったので心から謝罪した。
死にたい人を助けることほど惨い事は無い。それでも見てしまったものだから死んでほしくはなかったのだ。この僕の傲慢さで彼女は生きながらえてしまっている。彼女にとって死にたくなる酷く辛い世界をもう一度生きろと僕は言っているのだ。
「だ、だれ!?」
彼女はお姉さんを見て驚き座ったまま後ずさった。
「お姉さんはあなたを助けてくれたんだよ。」
「助けてなんて頼んでない。」