「でも、まわりから、わたしだけズルいって思われないかな……?」
 運動が苦手な子や、体育祭がめんどくさい子だっているもんね。
 だけど、先輩は、そんなの知ったことか、って感じで、
「そうやっていちいち自分の気持ちにカギかけんなよ。一歩ふみ出す前から、悪い結果になるなんて考えるな。年に一度の行事なんだから、いっしょに楽しもうぜ」
 と、わたしに向かって小指をさし出した。
 きょとんとしているわたしに、
「ほら、指きりしよう。オレ、体育祭でぜったいリレーで一位とってみせるから。だから、しずくちゃんも一生けん命応援して」
 指きり?
 小さいころにやったことはあるけど……。
「な? 約束!」
 そう念を押されて、わたしも反射的に小指を出すと。
 きゅっ、と先輩の指が絡まった。
 スッと長くて、きれいな指。
 思わず顔が熱くなる。
 手をにぎられたわけでもないのに。
 胸の鼓動がさわがしくなってる。
「よし、これでOK」
 先輩の指がはなれたとたん、ハッとわれにかえった。
 だけど、まだ夢から覚めたばかりのように頭がポーッとしてる。
 どうしちゃったんだろう、わたし。
 先輩はうれしそうにうなずいて。
「ありがとう。オレ、しずくちゃんが応援してくれたらきっとがんばれるから。当日、よろしくな!」
 と、わたしに笑いかけた。
 その元気で明るい笑顔に照らされていると、思わず涙がこぼれそうになる。
 今まで自分はなにもできないと思ってたけど……。
 わたしにも力になれることがあるのかな?