私は急いでうどんをすすり、下膳しに行った時だった。またしても財布を手にした彼とすれ違う。彼は今は1人のようだ。

しっかりと目が合う。

ああ、これから毎日こんな思いをするなら、自分の机でお昼食べよう。

「あの」

彼はしっかりと私に話しかけてきた。

「はい」
「体育館使うやつの申請って学生課でいいんですか」
「学生生活課」
「すいません、学生生活課行けばいいんですか」

彼は口元に手を当てながら話してるから表情が読めない。

「はい、紙書いてもらえれば使えます」
「ありがとうございます、後で行きます」

彼はそう言って注文の列に並びかけたので、私もホッとして荷物を取りに戻ろうとする。と、また「あの」と呼び戻された。

振り向くと彼は右手を挙げて私の方を見ている。

「学生生活課って8号館のとこですか、椎果さんいるところ」

「椎果さん」という艶かしい響きがどストレートに届く。ああ、やめて、上の苗字で呼んで、と思ったけどそういえば下の名前しか伝えてなかった。

「はい、そうですそうです」

私は端的に返して急いでその場を後にした。学生達の目が私に突き刺さっている気がする。

違います違います、彼とは何の関係もありません。