「何なんですかね、今は全然緊張してないし、2時間余裕なんですけどね」
「お互い背伸びしてないからじゃない」
「あ、そういえばあの日の木下さんメイク頑張ってましたもんね」
「うるさい、仕事とプライベートで分けてるの」
「へえ、デートの時ああいう感じなんですね」

晴人は頬杖をついて少し怠そうにハイボールを飲んだ。

デートってそういえば人生で数えるくらいしか行ったことないな、と思ったけど敢えて口には出さない。

餃子の食べ方マニュアルの裏側に小籠包も紹介されていて、私たちは小籠包も注文した。晴人は、残った塩焼きそばをたくさん食べたから正直お腹は空いてないと言う。

小籠包から溢れるスープが熱くて、ただそれだけなのに私は笑った。誰かとご飯を食べている。

この間のような罪悪感と羞恥心に潰されそうなご飯ではなくて、ちゃんと味わえるご飯。

「俺、年上と付き合ったことないんですよね、タメか年下しかなくて」

晴人はごぼうの漬物だけをポリポリとかじりながら言う。

「いつから彼女いないの」
「大学1年で別れてからずっといないですよ」
「へえ、意外」

余りにも美味しそうに目に映ったので私ものぼうに手を伸ばす。彼は少し取りやすくなるようにごぼうの皿を私の方へ動かしてくれた。