そんなことを話していると体育館に着いた。晴人の指さす方を見上げると、なるほど、天井の骨組みのところに丁度ボールが挟まったようだ。似たようなボールが実はあっちにもこっちにもある。

彼の友達が一生懸命下からボールを当てて落とそうとしてるが、なかなか命中しないらしい。

「すいません、これって罰金ですか」

隣で晴人が私の顔を伺う。

「大丈夫です、別のボール使ってください」

私が小さく応えると、晴人は体育館中央にいる友達に届くような声に変えて言った。

「別のボールでも大丈夫だって」
「えーもう少しで落とせそうなんだけどな」

中央にいる彼が少し肩を落とす。何か一つのゲームになっていたようだ。

「じゃ、鍵の閉め忘れだけないようにお願いします」

私がくるりと背中を向け、また8号館へと戻ろうとした時、晴人が「木下さん」と呼び止める。

「卓球台って使っていいんですっけ」

何なんだろう、この単細胞生物。
目の前で晴人は真顔を向けていた。