不器用な神野くんの一途な溺愛

私は見ないフリをして、会議室を出る。

その時、たくさんの人が話しているのが聞こえた。

私の噂なのかな? それとも――


「 (希春先輩に、迷惑をかけたくないなぁ……) 」


間違っても、私との変な噂が流れませんように――

心の中で、そっと祈った。


だって、

こんな私に優しくしてくれる先輩には、迷惑をかけたくないんだもん。

副委員長の小言も、皆からの注目さえもお構い無しで、私をあの場所から逃がしてくれた。地獄から救ってくれた。


そんな人――希春先輩しかいない。

今の私の、唯一の味方だ。


ガラッ、パタン


会議室を出た時。

希春先輩は私の目を解放しないまま、「さて」と声を潜めた。


「皆にあぁ言った手前、一応保健室には行くけど、良い?」

「 (こくん) 」


こういう時、言葉でお礼を言えないのはダメだよね。情けないよ……。

ちゃんとお礼を言いたい。

あ、でも……


「 (泣き声を聞かれなくていいのは良かった、かな?)」


喋れない私は、泣く時でさえ声が出ないらしい。涙だけが、静かに頬を流れていた。


「 (先輩に直接お礼が言えないなら、せめて心の中で……) 」


先輩に伝わらない、私の静かな「ありがとう」。

その言葉を、何度も何度も、心の中で唱えていた。


すると、その時――


希春先輩が「莉子ちゃん」と肩を叩く。


「到着したから、手を離すよ?」


え? そんなに歩いてないけど、もう保健室に着いたの?


不思議に思いながら頷くと、希春先輩は「じゃーん」と言って、私からゆっくり腕を離す。

その時に「ちょっと名残り惜しいな」って思いながら、ゆっくりと顔を上げた。


すると、そこには――