「んー…」

給湯室でコーヒーを淹れながら、真里亜は先程の文哉の様子を思い返して首をひねる。

(なんか様子が変だったなあ。妙に落ち着きなくて、慌てて視線を逸らしたり。そもそも目が合うなんて、今まであったっけ?)

どうしたんだろうと思いながら、ゆっくりとドリップコーヒーを淹れていると、廊下のドアから住谷が入って来た。

「阿部さん、お疲れ様です。これ、休憩の時にでもどうぞ」

そう言って、有名なパティスリーの紙袋を差し出す。

「わあ!ありがとうございます」
「あとこれは、副社長に。お気に入りのビターチョコです」

おおー、と真里亜は小さな箱を真顔で受け取る。

「さすがは住谷さん。副社長のお好きなもの、何でもご存知なんですね」
「まあ、つき合い長いですからね」
「えっ!そうなんですか?そんなに前からおつき合いされてたんですね」
「ん?話しませんでしたっけ?小学生の頃からの同級生だって」

あ!と真里亜は口元に手をやる。

「そうでしたね、そのおつき合いですよね。あはは!私ったらもう…。あ、ちょうど今コーヒーを淹れたところなんです。早速このチョコレート、副社長にお出ししますね。住谷さんもご一緒にいかがですか?」

笑ってごまかしながらお茶に誘うと、住谷は優しい笑みを浮かべる。

「阿部さん、本当にありがとうございます。副社長を見放さないでくださって」
「え?何ですか、急に」
「いえ、あなたにはいつも感謝しているんです。皆が逃げ出したのに、あなただけは副社長のそばにいてくれる。彼に代わってお礼を言わせてください。本当にありがとう」
「いえいえ、そんな。住谷さんこそ、副社長の心の支えですよ。『彼に代わってお礼を』なんて、本当に素敵ですね。羨ましいなあ」

私にもそんなふうに想ってくれる彼がいたらなあ、と真里亜は頬に手を当ててうっとりした。