一郎くんは、あのドライブした日以来、しばらく私の退勤後、車で迎えに来てくれた。
そして一郎くんが言った通り、敦志が仕事帰りに病院の職員通用口で私を待っていた。

『沙緒里…』

『あ、敦志。お久しぶりです。何?私を騙した事を謝りに来たの?』

『……』

『敦志、私なら大丈夫よ。あなたに縋ったりしないから安心して。
茉莉花さんだっけ?お幸せに。
じゃあ。さよなら』

『沙緒里、茉莉花とは別れたんだ!
アイツにはブランド品ばかりおねだりされて、料理も家事も出来ないし…』

『そう。家政婦代わりの彼女じゃあなくて残念だったわね』

『違う!やっぱり俺には沙緒里しかいないんだよ』

『アラ、やっぱり敦志は自己中ね!
私、あの茉莉花さんが出た電話のおかげで運命の人に出逢ったの!
彼からプロポーズされて、両家の親たちも賛成してもらって、彼と結婚するの!』

『え、結婚…? あれからまだそんなに経ってないのに…』

『オイ!沙緒里! どうした?何かあったの?』

『一郎くん! 元カレが復縁求めにやってきたのよ』

『やっぱりな。東川さんでしたっけ?
沙緒里はオレの婚約者なんでこういうのやめてもらえます?
あまりしつこいようなら支店長にお話させていただきますよ!』

『え? あなたは…
もしかして戸山さん…?』

『はい。私もあの電話の時に隣にいましたから。
二股野郎がウチの会社の担当者ねぇ…
仕事でキズがつきたくないなら、沙緒里に付き纏わないでもっと自分の都合に合った女性を探して下さい。
沙緒里、行こう』

『うん』

一郎くんと私は車に乗り込んだ。
車が発進する時、ガックリうなだれて立ち尽くしている敦志が見えた。

そして1ヶ月後、敦志は海外赴任どころか関西のある企業へ出向になったらしいと一郎くんが教えてくれた。