「戸山くん。本当にありがとうございます」

「いえいえ…ところで…
あの〜こんな不躾な事を聞いて良いのかわかりませんが、どこか具合が悪いんですか?」

「実はね、私が癌になっちゃってね。
今日から抗がん治療だったの。
とりあえず半年間しなきゃいけなくて、沙緒里にも仕事休んでもらって付き添いしてもらったのよ。」

「え! 抗がん治療!申し訳ございません。
こんな質問してしまって… ごめんな寺田さん」

「ううん。大丈夫。ウチのお母さんは完治するって自信あるんだ! お母さんも治ったら旅行だよ!今から行く所を探しておいてよ〜」

「ふふふ。ありがとう沙緒里。前から北海道へ行ってみたかったのよね〜。
一郎くんは北海道行った事ある?どこが素敵なのかしら〜」

「オレは高校の修学旅行が北海道でした。
札幌も小樽も良かったし、オレが行った時は富良野のラベンダーは刈り取られた後でした。」

「すごいね!修学旅行が北海道なんて。
私達は京都と大阪だったよ」

「沙緒里は京都でグループの子達とはぐれて迷子になったわよね。 
お母さんのところへ引率されてた先生から連絡きたわよね。」

「迷子?!」

「違うよ戸山くん。ちょっと地元のお婆さんに道を案内したら皆んなが居なくなってて…」

「結局、交番で先生を待ってたのよね」

「まぁ、そうだったけど… もう!」

「ハハハ! 
京都で迷子!寺田さん最高〜!ハハハ」

「戸山くんも聞かなかった事にして!」

「ハハハ。はいはい」

「ふふふ。一郎くん。こんな沙緒里だけど、これからも仲良くしてやってね。」

「はい。こちらこそ10年ぶりに地元へ戻ってきたので寺田さんにいろいろと地元の変わった所や新しい事を教えて貰えると助かります。
そう言えば、うちの母が寺田さんのお母さんと久しぶりにお話したいって言ってました」

「本当?! 嬉しいわ。私もお話したいから私の携帯番号を紙に書いて渡すので、お母さんに渡してもらえるかしら?」

「はい。わかりました。ウチの母も喜びます。
ありがとうございます。」

こんな話しをしていたらウチのマンションに到着した。
また戸山くんが運転席から出て後部座席のドアを開けてくれた。

私とお母さんで戸山くんにお礼をして車を見送った。