わたくしたちが働く理由――己の能力を活用したい、やりがいのある仕事がしたい、誰かに感謝されたい――それ自体はいいことです。むしろ、当たり前の感情でしょう。
 しかし、恐ろしいことに、同僚の中には『人を救いたい』『それができる自分になりたい』『己の能力を誇示したい』という想いを叶えたい一心で、無意識のうちに『火災が起きてほしい』と願っているような方もいらっしゃるのです。


(そういう方は他の局に配属されればいいのに)


 魔術師団には王族の警護を務める部署も、国や王都の防衛を担当する部署もありますから。そちらのほうが花形ですし、余程承認欲求を満たせることでしょう。わざわざ泥臭い消防局を希望しなきゃ良いのに、なんてことを思います。


 よく『クラルテは人付き合いが良さそうだよね』と言われますが、そんなことはありません。

 わたくしは存外好き嫌いがハッキリしています。嫌いな人や苦手な人とも一応お付き合いしますが、実際のところは相容れないなぁと心の奥底で思っています。見えない壁を作っていますし、もしも近寄ってこられたら全力で引きます。笑顔で防御をして、本心を見破られないように気をつけているだけです。

 打算的だなぁって自分でも自覚はあります。とはいえ、旦那様に『ダメ』だと言われない限り、変える気なんてないんですけどね。