そうなんです。わたくしはまだ、旦那様の婚約者(仮)状態を抜け出せていないのです。

 もちろん、長丁場になることは覚悟していましたし、旦那様の愛情を勝ち取るのは『望み薄だよ』ってプレヤさんに忠告されていました。

 だけど、結婚は旦那様が魔術師団に残る条件だって聞いてますし、愛がなくても結婚だけは了承してもらえるかなぁなんて打算もありましたし。結婚さえしてしまえばこっちのもの。ゆっくりと落とせばいいんじゃないかなぁなんて思っていたのですけれども。


「それについては追々……ちゃんと考えてはいるから」


 額をそっと押さえつつ、旦那様は小さく息をつきます。心なしか頬が赤くなっているように見えました。


「……いいですよ。急かすつもりはありませんから」


 旦那様は真面目な方ですから。中途半端な気持ちで、ことを進めたくはないのでしょう。

 それでいいです。わたくしはそんな旦那様を――そんな旦那様だからこそ、好きになったのですから。


(その分わたくしも本腰を入れて、旦那様に好きになってもらえるように頑張らないと)


 そのためなら、いくらでもあざとくなってやりましょう!

 密かに気を引き締めつつ、わたくしは旦那様を見つめるのでした。