それはクラルテが俺のもとに押しかけてくる数日前のことだった。


「結婚? 俺がですか?」

「そう、これ上官命令ね」


 俺は直属の上司であるプレヤ氏に呼び出されていた。
 腹立たしいほどにニコニコと微笑まれ、俺は思わず唇を尖らせる。


「プレヤさん、俺はもう結婚はしないとあれほど……」

「聞いたよ。それこそ耳にタコができるほどにね。だけどさ、考えてもみなよ。ほんの二年間婚約していただけの女に浮気されて、婚約を一方的に破棄されたんだろう? それだってもう五年も前の話だ。それなのに、未だにそんな女に操を立てる必要なくない? というか、相手は既にその浮気相手と結婚しているんだろう?」


 プレヤさんは言いながら「やれやれ」と首を横に振っている。俺はさらに唇をムッと尖らせた。


「お言葉を返しますが、男として一度決めたことを覆すのはいかがなものかと思います。俺はロザリンデと結婚すると約束をして」

「で、裏切られた、と。そんな約束、完全に無効だ。第一、君たちの婚約は政略によるものだったのだし……」