「ねえ、旦那様」

「なんだ?」

「早く、正式に婚約を結びましょうね?」


 クラルテはそう言って、俺の手をギュッと握る。まったく想像していなかったことに、俺は思わず目を見開いた。


「なっ……」


 この状況で、それを言うのか? 俺が、クラルテを意識しているこのタイミングで……。


(もしかして、わざとか? ……先程の発言も?)


 もしも俺が勘違いをするとわかっていてあえてああいう聞き方をしたのだろうか? だとしたら、クラルテはとんだ小悪魔だ。あざとい。けれど、不思議と嫌いになれない。というか、いよいよ目が離せなくなる……。


「はじめに申し上げたとおり、わたくしは旦那様に愛してほしいだなんて言いません。だけど、わたくしは旦那様を心からお慕いしておりますので……愛されたいとは思っています。ですから旦那様、覚悟、していてくださいね?」


 下から顔を覗き込まれ、俺はまた、ゴクリと息を呑む。そっと首を傾げる仕草は、表情は魅惑的な小悪魔そのものだ。


(やっぱり、今からでも遅くない……彼女を実家に帰すべきかもしれない)


 けれど、悲しいかな。クラルテのあまりの押しの強さに、俺はまったく勝てる気がしなかった。