愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!

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(気持ち悪いっ、気持ち悪いっ、気持ち悪いっっっ)


 ザマスコッチ子爵と並んで歩きつつ、わたくしは背筋を震わせます。腰に手を添えられてしまい、正直言って泣きたいですし、吐き気がすごいです。

 だってわたくし、ハルト様以外に触られるとかありえないですから。本気で嫌です。嫌すぎます!

 ……しかし、これはお仕事。ハルト様と平穏無事に暮らすために必要なお仕事です。

 上手く行けば、王都に暮らすたくさんの人を救うことができますし、結構責任重大です。吐き気を必死に堪えつつ、わたくしは大きく息をつきます。


「今日はお忙しいなかお時間を作っていただき、ありがとうございます。ようやくお話する機会がいただけて、とても嬉しいです」


 嘘ですけど。本当はこんな人に会いたくなんてありませんけど。本音を言えば、こんなことをしている暇があったらハルト様と一緒にお家でぬくぬくイチャイチャしていたいんですよ、わたくしは! 
 ……だけど、こう言えって言われているので、しっかりガッツリと嘘をつきます。


「こちらこそ、私に興味を持っていただけて嬉しいですよ」


 ザマスコッチ子爵がわたくしの手を握ろうとします。すんでのところで、わたくしは彼から距離を取りました。