「誰が一体なんのために?」

「理由などなくとも、犯罪を犯す人間はたくさんいるんだよ、ハルト。だけど、燃え盛る炎を見るのが好きだとか、人を困らせるのが楽しいとか、そういう考えの人間がいるのもまた事実だね。もちろん、そんな人間はごく少数だけど」


 プレヤさんはそう言って焼け落ちた建物をじっと見つめた。


「あとは火事を起こすことによって得をする人間がいる、とかね」

「得? そんな馬鹿な。火事は恐ろしいものです。ものを、建物を、人の命をたやすく奪ってしまう。それなのに、得をするだなんて……」


 にわかには信じられない。俺は大きく息をついた。


「捜査当局はなにをしているんだ? まさか、犯人の目星すらついていないのでは?」


 同じ魔術師団に属していても局が違えば仕事は違う。犯罪者を捕らえるのは捜査当局の役割だ。俺たちの仕事はあくまで火を消すこと。憤っていても仕方がないとわかってはいるのだが。