愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!

「クラルテ」

「〜〜〜〜ついでに口説かれかけたんですよ! ちゃんとかわしましたけどね!」


 ハルト様を押し返しつつ、わたくしはちょっぴり声を張ります。ムッと眉間にシワを寄せたハルト様を抱きしめながら、わたくしは彼を抱きしめました。


「それより、わたくしだってちょっぴり傷ついてるんですよ。ハルト様がロザリンデさんと会話を交わしていたこと」


 言いながら、思わずため息が漏れ出ます。

 あーーあ、本当は拗ねるつもりなんてなかったのに……ハルト様に触発されてついつい本音を言ってしまいました。
 だって、あれは完全なもらい事故ですから。ハルト様はロザリンデさんと話すつもりなんてなかったってわかってますもの。わかっていても、いい気はしないもんなんです!


「すまない」


 ハルト様は言いながら、わたくしの頬にキスをします。何度も何度も。あやすみたいに。


「なんだかわたくし、ごまかされてます?」


 まるで、やましいことがあるみたいじゃないですか? わたくしはムッと唇を尖らせます。


「違う。……嬉しかったんだ。クラルテが俺のために怒ってくれたこと」


 ハルト様はそう言って、穏やかに目を細めて笑います。……表情を見ていたら、それが彼の本心だってすぐにわかって、なんだか泣けてきてしまいました。