クラルテはとても料理上手だった。ありあわせの少ない食材を上手に活用し、二人分の夕食を手際よく作ってくれる。


「お味はどうです? 旦那様の胃袋、ちゃんと掴めそうですか?」

「……聞くなよ」


 こういうことは心のなかでこっそり思うに留めてほしい。……いや、これこそがクラルテの魅力なのかも知れないが、反応にものすごく困ってしまう。


(そもそも貴族の――しかも高位貴族の令嬢が料理を作れるなんて誰が思う?)


 本来なら、厨房に入ることすら止められるところだろう。人によっては『みっともない』と眉をしかめる行為かもしれない。

 だが俺は、不思議と悪い気はしなかった。というか、素直にすごいと思う。


「たくさん作ったので、たくさん食べてくださいね。それから、明日はもっと気合を入れてすごい料理を作りますので、期待していてください!」

「気持ちは嬉しいが……自分でハードルを上げていいのか?」


 既に十分美味しいというのに、なんともチャレンジャーなことだ。俺が首を傾げれば、クラルテはドンと胸を叩く。