数年間主人が不在だった小さな家は、定期的に清掃されていたとはいえ、どこか暗くて埃っぽい。俺は今、そんな家の小さな居間に、自身の婚約者となる女性――クラルテと向かい合って座っている。


「いい香りでしょう? お気に入りのお茶なんです。旦那様に気に入っていただけたらいいんですが」


 ガラス製のティーポットにスライスされたフルーツとお茶。カップに注がれる際にふわりと甘い香りがした。


「ありがとう」

「どういたしまして! それより、とっても素敵なお屋敷ですね! わたくしひと目で気に入ってしまいました!」


 クラルテはそう言ってぐるりと室内を見回す。俺は思わず笑ってしまった。


「そんな馬鹿な……ここは屋敷と呼べるような立派なものではない。それに、君がこれまで暮らしてきた屋敷とは比べ物にならないほど小さいだろう?」


 ブクディワ侯爵家には行ったことがないが、資産家の一族として有名だ。こんなささやかな家、下手すれば犬小屋に劣るのではないだろうか?