「旦那様……!」


 その場にひざまずき、クラルテの手をギュッと握る。左手にはビロードの小箱に入った指輪を。俺はまっすぐにクラルテを見つめる。


「クラルテ――俺は君を心から愛している」


 それはあまりにもシンプルで、ありふれた言葉かもしれない。けれど、なによりも大切で、なによりも愛しくて、自分の命を、すべてを賭して守りたいと思える存在に出会えたその喜びを――人は愛していると表現してしまうのだろう。俺には一生縁のない言葉だと思っていたのに――毎朝、毎晩ささやいても足りないぐらい、感情が溢れかえっている。


「これから先の人生を、俺と一緒に歩んでほしい。俺と結婚してくれるだろうか? 俺を君の、本当の『旦那様』にしてほしい」


 ここにはロマンチックな夜景も、豪華なディナーもなにもない。目の前にあるのは先程まで燃えていた建物と、指輪と、あちこち焼け焦げて煤だらけになった俺たちだ。


(――こんな泥臭いプロポーズは失格だと、プレヤさんに笑われるだろうか?)


 けれど、そんな俺のプロポーズにも、クラルテは涙を流しながら笑っている。


「はい、喜んで!」


 胸に飛び込んでくるクラルテを抱きとめながら、俺は目を細めたのだった。