ふと見れば、クラルテの瞳が涙で潤んでいた。手を伸ばし、指先でそっと拭ってやる。色んな感情を押し殺した、そんな表情に俺には見えた。


「クラルテ……」


 呼べば、クラルテがそっと微笑む。
 その瞬間、記憶の中の小さな少女と、目の前のクラルテの姿がピタリと重なった。
 身なりは――貴族の令嬢のものではなかったけれど、先程のクラルテの発言と照らし合わせれば辻褄が合う。このエリアに来るときには、街に合わせて服装を変えるようにしていたのだろう。

 間違いない。
 あれは、あの少女は――クラルテだった。
 

(どうして忘れていたのだろう?)


 クラルテこそが、俺に仕事への情熱と誇り、やりがいを与えてくれた張本人だというのに。


「俺は……」


 伝えたい。今すぐに、彼女への想いを。未来への誓いを。

 けれどそのとき、ドン! という爆音と地響きがする。次いで王都の中心街からモクモクと煙が上がりはじめ、俺たちは顔を見合わせた。