「そう言えば……仁くん、『よく親から兄ちゃんと比べられるんだぁ』って言ってました。

それに、『小さい頃は、大好きで大好きで仕方なかった兄ちゃんなのに、今では比較されるから嫌いになりそうだ』って!」



「はぁ……あいつ」



「仁くんは優しいから……怒るのが苦手で、人を絶対に傷つけたくないから!

だから、これからも仁くんは……」



夏実が言いかけたが、航は弟の思いに胸を痛めたのだろう。



その先の言葉を聞かないようにしていた。



「夏実ちゃん、ありがとう」



「え?」



「教えてくれて……」



「あっ……はい」



「これは夏実ちゃんにも言えるけど、大人になって後悔するよ?」



航は素直に思った気持ちを伝えていた。



「わ、分かってます」



「夏実ちゃんちに口挟む権利なんてないけど、これだけは言わせて!

夏実ちゃんには、笑って楽しいと思える人生を歩んでほしいな!

そんで、自分のしたい夢を叶えて欲しい。

これは仁もそうだけど!将来、夏実ちゃん達が楽しい人生をを過ごしてくれていたら、おじさんは幸せだ」



「あ、ありがとうございます」



航は長々と夏実に向け、思いをぶつけた。



言ったからって何かが変わるわけでもない。



でも、何かの力になれればと思ったに違いない。



「今はそんな事しか言えないし、何も力になってやれないけど……ただ俺は応援してる」



「ふふ」



さっきまでとは違って、夏実は微笑んでいた。



暗かった表情が何だか少し晴れたみたい。



「あれ?変なこと言ったかな?」



「いえ、仁くんが言ってた通りだなぁって!」



「何が?」



「優しくてカッコいいお兄ちゃん!」



「え!あいつがそんなこと……」



航は言葉を詰まらせるが、口許は緩んでいた。



「ありがとうございます。話を聞いてもらって!少し吐き出したら楽になりました」



「そっか。なら、良かった」



「最後に、もう一個聞いてもらおっかな?」



「うん?どおした?」



夏実は最後に航へ相談というか、一番の悩みを打ち明けていた。



航は任しとけと言わんばかりに、笑顔で応えてくれた。



航のおかげで今では、夏実の悩みなんて空の彼方へ飛んでいったみたい。



しばらく、夏実は寒さなんて忘れ、航と談笑していた。



航が夏実達の背中を押してくれるから。