人生は虹色〜兄が僕に残した言葉〜

昼下がり、

僕は甥っ子で賑わう我が家を抜け出し、

地元にある文化センターへと向かった。



赤の目立つ服を着ていたら、

気づいてくれるんじゃないかと期待して、

僕は現実と妄想の狭間にいる。



きっと、この格好なら僕に気づいてくれるはず。



そう自信げに胸を張って、

文化センターの中へと入って行った。



目に飛び込む混雑し合う大勢の人々。


もう少し余裕をもってこれば良かったと後悔する暇もなく、空いていた席がまた一つと埋まっていく。



「ママ、お姉ちゃんどこらへんで演奏するの?」


空いている席を探していると、

我が子の演奏を楽しみに来場する家族。



「そうだねぇ?聞いとけば、よかったね」



「じゃあ、顔が見れるように前の方に行こう!」



「うん、だね」



来場されたほとんどの人が今日、

ステージで演奏する吹奏楽部員の家族だろうに、周りから聞こえてくる我が子の演奏を楽しみにする声ばかり聞こえてきた。



それもそうだよね、

僕が思ってた以上の来場者の数、

座るのも一苦労で、

良い席を取るのも容易ではない。



開演5分前。



「兄ちゃん、座る席ないんかい?」



「え?」



「わしの隣、座るとええで!」



優しく僕に気遣うように、

隣の席に置いてあった荷物を退けてくれた。



誰かのために取っておいた席なのだろうか、

僕は気になりながらもおじいさんの隣に座らしてもらう。



「ありがとうございます。でもいんですか?誰かのために取ってたんじゃあ?」



「なーに遠慮することない!残念なことに来れなくなってしまってね。だから、遠慮なく君が座るといい」



「あっそうだったんですね。親切にありがとうございます」



僕は譲ってくれたおじいさんにお辞儀を簡単に済ませ、まもなく始まる演奏会を待ちわびた。



座った席は前の方ではなく、

なんなら後ろの方で、

夏実に気づいてもらうのは難しい。



まぁ、しかし、

ほぼ満席に近いこの状況で、

座れたこと自体、ラッキー。