「もう、こうやって一緒にいられることも、なくなるんだ……」
「あのちゃんは、嫌だ?」
「正直嫌ですけど。でも天野先輩は本来、私の手の届かないところにいる人だし。運命には逆らえないのかな?って」
「これからも屋上以外でも一緒にいるのはダメかな?」
「私は嬉しいですけど。でも、学校以外で会うと撮られたりして恋人ではないのに、ないこと色々書かれてしまって、そしたら天野先輩の今後の活動が私のせいで……」

 想像しながら話をするあのちゃんは、だんだんと縮こまっていった。

 ふたりの距離が中途半端だった。
 恋人でも友達でもない。
 あのちゃんは僕にとってただのファンでもない。

 こないだ、あのちゃんが本当にほしいものってなんだろうと考えた。いつもこっちが渡したものを喜んで受け取ってくれて。あのちゃんからお願いをされたことはないなって。考えていたら、ふと、CDのリリースイベントの時にあのちゃんが僕に向けてボードに書いていた言葉を思い出した。

『おとくん、抱きしめてやるから、こっちに来てよって、クールに言って♡』って。

 これをイベントではなくて、今言ったらあのちゃんはどんな反応をするんだろう。


「あのちゃん、ちょっとお願いしてもいいですか?」
「あ、はい」

 あらたまった感じで僕がそう言うと、あのちゃんの背筋が伸びた。