「そういえば、日常はきちんと過ごせてる?」
「えっ?」
「右腕怪我したら何かと大変そうだなぁって思って……」
「大丈夫です。怪我はまだ治ってないですけれど……」

 嘘ついちゃうと語尾がもごもごしちゃう。

 というか、まだ先輩は私の怪我が治ってないとか思ってるのかな? 
 だから気をつかって、まだ一緒にいてくれているのかな?

「学校では今のところ普段通りに過ごせているし、うちで何かあっても家族がいるし。あ、でも、来週の週末は両親泊まりでいないんだった」
「ひとりなの? 大変じゃない? ご飯とか準備しに行こうか?」

 せ、先輩がうちに――?

「無理です!」

 力いっぱい私は言った。

「あ、ごめん。だよね」

 しょんぼりしてあやまる天野先輩。

「嫌だからじゃなくて……」

 だって、推しの天野先輩が家に来るとかありえない。そんなに散らかっているわけではないけど、うちを見せるのが恥ずかしい。それに私の部屋は天野先輩のグッズでいっぱいだし。先輩のキャラのぬいぐるみとか、ポスターだって貼ってあるし……。それにそれに……。

「嫌じゃないのは分かったよ。でも心配だから、何かあったらすぐに連絡してね。来週の週末は夕方まで音楽祭のイベントだけど、夜はフリーだから」

「一応、何かあった時のために家も教えといて」と言われたから、地図と住所を先輩のLINEに送った。