「僕の再婚について皐月はどう思う?」

「・・・・・・。」

「皐月が反対なら僕は再婚しない。何よりも娘である皐月が僕にとっては一番大切だから。」

その言葉だけで充分だった。

私はにっこりと微笑んだ。

「私は賛成よ。パパが幸せになることに反対なんてする筈ないじゃない。パパは私のことなんて気にしなくていいの!」

「皐月・・・ありがとう。」

パパの顔が安心したように和らいだ。

「実は・・・もうひとつ言っておかなければならないことがあって・・・」

「なあに?この際隠し事はナシだよ?」

「冬実さんには息子さんがいるんだ。」

「息子・・・?!」

「ああ。皐月より少し年下の・・・男の子なんだけど。」

「え?私に義弟が出来るの?!どんな子なの?」

弟という言葉に胸が躍った。

一人っ子の私は、密かに兄弟のいる友達をずっと羨ましく思っていたのだ。

「名前はレン君って言ってね。ちょっとヤンチャ坊主だけど、母親思いの優しい子だよ。」

私はヤンチャ坊主という言葉のイメージから、膝小僧に絆創膏を貼って、ランドセルを背負っている小学生男子を頭に思い描いた。

「レン君・・・か。」

「どうだろう。今更兄弟なんて欲しくないかな?」

パパが困った時にする表情をした。

「ううん。相手は男の子だしちょっと不安もあるけど、大丈夫だと思う。」

「皐月がそう言ってくれると僕も嬉しい。」

「まかせて。私、きっといいお姉ちゃんになってみせるから。」

また空気を読んで、こんな大風呂敷をひいてしまった。

でもパパの幸せを私の一存で壊したくない。

「向こうは早くに父親を亡くしているし、男の子だから色々と大変かもしれないけど、仲良くしてやって欲しい。」

「うん。」

「来週の日曜日に冬実さんとそのレンくんがウチに顔合わせにくるから予定を開けといてくれないかな。」

「わかった。」

夕飯の片づけが終わり部屋に戻った私は、宿題をするために机に向かった。

けれどまだ見ぬレン君の事を考えてしまい頬が緩んだ。

レンくんはどんな食べ物が好きなの?

美味しいケーキ?チョコレート?

それとも手作りハンバーグ?

今どきの男の子ってどんな遊びをするの?

やっぱりゲームとか?

私もマリオカートなら得意なんだけど。

一緒に勝負してあげたら喜ぶかな。

亡きお父さんの代わりに、私がレン君を守ってあげるからね。

私はまだ見ぬ義弟レン君とのあれこれを夢想してふふふと笑い、再び数学の問題を解き始めた。